2007年10月27日

「貧乏の神と福の神1」 (最上)

「ばんちゃん、ばんちゃん、とんと昔、とんと昔、語ってけろ。」
おぼこだの声が寝床から聞こえできだ。
今夜もばんちゃんは孫にとんと昔を語り継ぐ。
こうして、何百年も人の心ありようが受け継がれていぐんだべな。

むがし、あったけど。
あるどごろさ、父ちゃんにも、母ちゃんにも、死に別っで、一人さみしく暮らしている若勢いだっけど。
若勢は、生きる甲斐ばなぐしては、気ぬげで、毎日、ぐだらぐだらど暮らしったけど。
そごさよ、そんげな家大好ぎで、さがし歩いっだっけ者いだど。
誰だど思う?

おぼこらが声をそろえで…
「貧乏神」
ばんちゃんが…
「んだ、貧乏神だじゅ!」
「おらぁ貧乏神だぁ、やっといいどご見つげだ。世話なんべ。こりゃあんばいいなぁ、まんず、まんず。」
って、言ってニコニコ笑っていだっけど。
ほうすっどよ、その家の若勢は、なお気抜げではぁ、ますますぐだらぐだら暮らすようなたっけど。
そげな若勢ば見っだけ村衆は、見るに見かねで、若勢さぁ嫁っ子世話して、なんとが立ち直らせんなんねなぁと、相談ぶったけど。

 めでためでたの若松様よ~
今日はめでたいむがさり(結婚式)だぁ。
若勢はめっぽうめんこい嫁っ子さ、一目惚れ。
若勢と嫁っ子は、すぐ仲いいぐなって、若勢は嫁っ子のために、一所懸命、稼ぎだしたっけど。
んでも、なんぼ稼いでも、暮らしはさっぱりいいぐならねっけど。
そういずば見っだけ貧乏神が言ったけもな。
「ほいずぁ仕方ねぇな。おらがこの家さぁいる限り、貧乏だぁ。悪いげんども仕方ねもなぁ。」
んでも、この嫁っ子は、貧乏なんてさっぱり苦にすねで、朝から晩まで、若勢と一緒に稼いで、家の掃除ばしたり、障子ばはりがえだり、煤払いしたり、まんずやっちゃがねがっだ家、見違えできれいになったけど。
そんだけでねぇぞ。優しい嫁っ子は、飯たけば飯を、団子つくっど団子ば、貧乏神さお供えして、
「どうが家の守り神様、遠慮なぐすこだま上がってけない」
って、めんごい手ば合わせで、みすぼらしい神棚、拝んでいだっけど。
貧乏神は、なんだがけっつのあだり、むずむずしてきて、だんだん居心地悪ぐなってきたっけど。
んだたで、貧乏神はどさ行ったっで、邪魔者あつかい、さっだごはあっても大事にさっだごどなんぞながったもな。んだがら面食らってはぁ、困っていっだけど。
んでも、大事されっがら、出ていぐに出て行けず、三年あっという間にすぎだど。
今日は年取り。
晩げに、若勢が家さ帰ってきったけど。
嫁っ子さ、大きな塩引き(塩鮭)ば、土産だぁって言って渡したど。
「あらぁ、立派な塩引きだな。餅も搗けだし、こりゃ今年はいい年取りだぁじゅ。あんた、おら、うれしいじゅ。ほんてんおおぎぃ(ありがとう)」
って言うたけど。
夫婦が仲いぐしているどご、ながめっだけ貧乏神、めそめそ、えんえん、うわーんうわーんて、だんだん大きな声だして泣き出したっけど。
んだずど、その泣き声ば、聞きつけだ若夫婦、不思議に思って、顔を見わせ、
「誰だんべ。誰が泣いでる。」
って言うずど、夫婦はちっちゃい家の中、見回して見だっけど。
二人そろって神棚ほうば見だれば、ほごさぼろの着物でいがにも貧乏臭い神様がいっだけど。
夫婦は、びっくりして、
「んにゃ(お前様)誰だぁ?」
って聞いだけっど。
「おらぁ、貧乏神だぁ。」
「貧乏神?」
夫婦は聞きなおしていだっけど。
「んだ…」
「ほんてだべが、あんだ」
って嫁っ子が若勢さ言ったけど。
「ん~んっ。」
って若勢が息ふかぐ吸うずど、考え込んで、やっと貧乏神さ聞いだけど。
「んにゃ、貧乏神だで、なして泣いでんのや?」
「なしてって…」
貧乏神はぁ言ったけど。
なして、貧乏神泣いでいだんだべね。
つづぎはまだ明日な。
おぼごは寝らんなねは。
  どんぺ、すかんこ、ねぇっけど。
                        「貧乏の神と福の神2」につづく


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