2007年11月06日
キノコのバゲモノ (最上)
「ばんちゃん、ばんちゃん、とんと昔、とんと昔、語ってけろ。」
おぼこだの声が寝床から聞こえできだ。
今夜もばんちゃんは孫にとんと昔を語り継ぐ。
こうして、何百年も人の心ありようが受け継がれていぐんだべな。
むがし、あったけど。
ここだら、ここだら、村の境の峠さ、毎晩、バゲモノ出はったけど。ほのバゲモノは、人来っど、「おうしぇ、待でぁ、おうしぇ、待でぁ。食い物、置いでいげ。食う物なげればんにゃ(お前)食うぞ」 て、おっかなぇ声で、さげぶなだけど。ほんで、おかなぇくて、おかなくてぇ、誰も、峠ば通る人えねぐなったけど。
村のしたづぁ(人達)、困てしまて、
「誰が、あのバゲモノ退治してける人、えねべがやぁ」 って、ほんだっても、誰も、えねけど。
ほしたれば、ほごさ、「なえだ、バゲモノなて、あるもんでなぇじゅ、俺、退治してける。」て言う人、来たけど。
ほして、ほの人ぁ、「おうしぇ、待でぁ。おうしぇ、待でぁ。バゲモノいねが? 旨そうなバゲモノいねが?」て、さげびながら、峠さえったけど。ほうしたれば、やっぱす、向こうの方でも、「おうしぇ、待でやぁ。おうしぇ、待でやぁ。俺、腹すいだ。食い物、置いでいげ。食う物なげればんにゃ(お前)食うぞ」 て、さげぶけど。
ほうすっど、「ほの人ぁ、俺もバゲモノだ。お前ぁ、何のバゲモノだ。」 て聞くじゅど、
「俺ぁ、代々こごさえる大食いのバゲモノだ。こごら辺で一番えらえ、峠一のバゲモノだじゅ。ほう言うお前ぁ、何のバゲモノだ。」 て言うけど。
「俺は、バゲモノ食いのバゲモノだ。大食いでは負けねぞ。んだら、バゲモノどバゲモノ、大食いの知恵競べすんべ。」 て、ほの人ぁて言うじゅど、バゲモノぁ、「ほいじゅあぁ、えがべなぁ」て言うけど。
「んだら、俺がら聞ぐげど、お前の一番おかなえものぁ、何だぁ。」 その人ぁ聞いだけど。
「俺の一番おかなえなぁ、にすん(鰊)と茄子だ。あれ見っずど、体中ザワザワ言う。」
て、バゲモノ、言うたけど。
「んだら、んにゃは、何おかなぇや。」 て、バゲモノ聞ぐっけど。
「俺ぁ、おかなえものぁ、砂糖餅だなぁ。何おかなえて、砂糖餅くらい、おかなえものぁなえ。」 て答えだけど。
「ほう、砂糖餅おかなえてがぁ。おがすぇもんだ。俺だごんだら、砂糖餅ぁ、大好きだ。」
て言うたけど。
「んだら、明日の晩、おらいのかが自慢の砂糖餅、持て来てける。おらぁ嫌いだであんばいいい」 て、その人ぁ帰て来たけど。ほうして、次の晩、
「おうしぇ、待でぁ。おうしぇ、待でぁ。」 て行ったれば、
「おうしぇ、えだ(居た)。ここだ。ここだ。」 て言うけど。ほうすっど、ほの人ぁ、いぎなり、「ほれ、砂糖餅。」て、にすん(鰊)ど茄子、ばらばらど、ぶって(投げて)やったけど。バゲモノぁ、たまげて、
「あー、あー、おかねちゃ。おかねちゃ。あー、えっだえ(痛い)、えっだえ。砂糖餅なて、この野郎ずほ(嘘)こえだな。よーす、この野郎。殺してけねんね。」
てごしゃいで、せんに(前)からためっだけ、虎の子の砂糖餅、「ばらばら」ど、ほの人ぁさぁ、ぶって(投げて)よごしたけど。
ほの人ぁ、「おかなぇちゃ、おかなぇちゃ。痛だえちゃ、痛だえちゃ。」 て言うて、こそっと、「んまえ(旨い)、んまえ。」て、砂糖餅食ったけど。ほうすっど、バゲモノぁ、
「この野郎、まだ生ぎっだが、んにゃどご、生かしでおがんなぇ。」 て、まあだ、砂糖餅、どんどんぶって(投げて)よごしたけど。
ほんで、ほの人ぁ、食うたてらんなぇ(食べきれない)砂糖餅ば、ふところさ一杯へっで(入れて)家さ帰ってきたけど。
つんぎの朝早ぐ、その人ぁ「なんたバゲモノだべ。よんべ(昨晩)のバゲモノぁ。にすん(鰊)と茄子ぶったれば、「えだえ(痛い)、えだえ。て言うけな。」 て、村境の峠さ行って見だれば、ほれごそ、おっけくて(大きくて)、おっけくて、見だごどもなえよな、大けなキノゴ、道一ぱえなて、「びちゃっ」てつぶっで、えだけど。ほして、菅笠よりも、唐傘よりも、大けなキノゴ、一面穴あえっだけど。
「こりゃ、たまげだもんだ。ゆんべ(昨晩)のバゲモノぁ、キノゴのバゲモノだけながぁ。」て、穴あえだ茸キノゴ、はきご(籠)さ、一杯へっで(入れて)背負って来たけど。ほして、「はぁあ、ばげものぁ、にすん(鰊)きしゃえ、(嫌い)だて言うけ、どれ、んだら鰊入っで、煮で食うべ。」て、煮て食たれば、んまぐで(旨い)、んまぐで、べろ(舌)おかげでいったけど。
とんぴん、すかんこなえけど。
おぼこだの声が寝床から聞こえできだ。
今夜もばんちゃんは孫にとんと昔を語り継ぐ。
こうして、何百年も人の心ありようが受け継がれていぐんだべな。
むがし、あったけど。
ここだら、ここだら、村の境の峠さ、毎晩、バゲモノ出はったけど。ほのバゲモノは、人来っど、「おうしぇ、待でぁ、おうしぇ、待でぁ。食い物、置いでいげ。食う物なげればんにゃ(お前)食うぞ」 て、おっかなぇ声で、さげぶなだけど。ほんで、おかなぇくて、おかなくてぇ、誰も、峠ば通る人えねぐなったけど。
村のしたづぁ(人達)、困てしまて、
「誰が、あのバゲモノ退治してける人、えねべがやぁ」 って、ほんだっても、誰も、えねけど。
ほしたれば、ほごさ、「なえだ、バゲモノなて、あるもんでなぇじゅ、俺、退治してける。」て言う人、来たけど。
ほして、ほの人ぁ、「おうしぇ、待でぁ。おうしぇ、待でぁ。バゲモノいねが? 旨そうなバゲモノいねが?」て、さげびながら、峠さえったけど。ほうしたれば、やっぱす、向こうの方でも、「おうしぇ、待でやぁ。おうしぇ、待でやぁ。俺、腹すいだ。食い物、置いでいげ。食う物なげればんにゃ(お前)食うぞ」 て、さげぶけど。
ほうすっど、「ほの人ぁ、俺もバゲモノだ。お前ぁ、何のバゲモノだ。」 て聞くじゅど、
「俺ぁ、代々こごさえる大食いのバゲモノだ。こごら辺で一番えらえ、峠一のバゲモノだじゅ。ほう言うお前ぁ、何のバゲモノだ。」 て言うけど。
「俺は、バゲモノ食いのバゲモノだ。大食いでは負けねぞ。んだら、バゲモノどバゲモノ、大食いの知恵競べすんべ。」 て、ほの人ぁて言うじゅど、バゲモノぁ、「ほいじゅあぁ、えがべなぁ」て言うけど。
「んだら、俺がら聞ぐげど、お前の一番おかなえものぁ、何だぁ。」 その人ぁ聞いだけど。
「俺の一番おかなえなぁ、にすん(鰊)と茄子だ。あれ見っずど、体中ザワザワ言う。」
て、バゲモノ、言うたけど。
「んだら、んにゃは、何おかなぇや。」 て、バゲモノ聞ぐっけど。
「俺ぁ、おかなえものぁ、砂糖餅だなぁ。何おかなえて、砂糖餅くらい、おかなえものぁなえ。」 て答えだけど。
「ほう、砂糖餅おかなえてがぁ。おがすぇもんだ。俺だごんだら、砂糖餅ぁ、大好きだ。」
て言うたけど。
「んだら、明日の晩、おらいのかが自慢の砂糖餅、持て来てける。おらぁ嫌いだであんばいいい」 て、その人ぁ帰て来たけど。ほうして、次の晩、
「おうしぇ、待でぁ。おうしぇ、待でぁ。」 て行ったれば、
「おうしぇ、えだ(居た)。ここだ。ここだ。」 て言うけど。ほうすっど、ほの人ぁ、いぎなり、「ほれ、砂糖餅。」て、にすん(鰊)ど茄子、ばらばらど、ぶって(投げて)やったけど。バゲモノぁ、たまげて、
「あー、あー、おかねちゃ。おかねちゃ。あー、えっだえ(痛い)、えっだえ。砂糖餅なて、この野郎ずほ(嘘)こえだな。よーす、この野郎。殺してけねんね。」
てごしゃいで、せんに(前)からためっだけ、虎の子の砂糖餅、「ばらばら」ど、ほの人ぁさぁ、ぶって(投げて)よごしたけど。
ほの人ぁ、「おかなぇちゃ、おかなぇちゃ。痛だえちゃ、痛だえちゃ。」 て言うて、こそっと、「んまえ(旨い)、んまえ。」て、砂糖餅食ったけど。ほうすっど、バゲモノぁ、
「この野郎、まだ生ぎっだが、んにゃどご、生かしでおがんなぇ。」 て、まあだ、砂糖餅、どんどんぶって(投げて)よごしたけど。
ほんで、ほの人ぁ、食うたてらんなぇ(食べきれない)砂糖餅ば、ふところさ一杯へっで(入れて)家さ帰ってきたけど。
つんぎの朝早ぐ、その人ぁ「なんたバゲモノだべ。よんべ(昨晩)のバゲモノぁ。にすん(鰊)と茄子ぶったれば、「えだえ(痛い)、えだえ。て言うけな。」 て、村境の峠さ行って見だれば、ほれごそ、おっけくて(大きくて)、おっけくて、見だごどもなえよな、大けなキノゴ、道一ぱえなて、「びちゃっ」てつぶっで、えだけど。ほして、菅笠よりも、唐傘よりも、大けなキノゴ、一面穴あえっだけど。
「こりゃ、たまげだもんだ。ゆんべ(昨晩)のバゲモノぁ、キノゴのバゲモノだけながぁ。」て、穴あえだ茸キノゴ、はきご(籠)さ、一杯へっで(入れて)背負って来たけど。ほして、「はぁあ、ばげものぁ、にすん(鰊)きしゃえ、(嫌い)だて言うけ、どれ、んだら鰊入っで、煮で食うべ。」て、煮て食たれば、んまぐで(旨い)、んまぐで、べろ(舌)おかげでいったけど。
とんぴん、すかんこなえけど。
2007年10月27日
「貧乏の神と福の神2」 (最上)
「ばんちゃん、ばんちゃん、とんと昔、とんと昔、語ってけろ。」
おぼこだの声が寝床から聞こえできだ。
今夜もばんちゃんは孫にとんと昔を語り継ぐ。
こうして、何百年も人の心ありようが受け継がれていぐんだべな。
ばんちゃん、ゆんべのつづき、つづき
んだが、つづぎが… んと、どごまで語っだけがな。
貧乏神が、貧乏神が、泣いだっけどこだじゅ。
んだ、んだ、貧乏神はぁなして泣いでいだんだけがな。
しゃねぇじゅ。なして、なして。ばんちゃん、はやぐ、はやぐ、つづきば
若勢が言ったけど。
「んにゃ、誰だんべ?
「おら、この家の貧乏神」
「なんと、こりゃたまげだ。んにゃ、貧乏神だでが」
嫁っ子が言ったけど。
「あら、おらいの家の守り神様、貧乏神だったんだがじゅ」
「うわ~っ…」
って、貧乏神は、大きな声で、まだ泣き出したけど。
「あらら、なしてほだい泣くのや」
若勢聞いだけど。
「なしてって、んにゃだ夫婦が、あんまり稼いですっかり貧乏でなぐなったさげ、今日、この家さ福の神が来るごどになってる。ほしたら、おら、この家ばぼだされるんだ。この家ぼださっでも、おら行くあてねぇもなぁ。ほだがら、悲しくって、泣いっだどごよ」
「あらら、ほだなごどだっけのが」
「貧乏神様、なんにもおらいの家おん出ていぐごなないよ、今までどおり、この家の守り神様でいでけらっしゃい」
って、嫁っ子も目さ泪ためながら言ったけど。
「んだて、ずげ、福の神くっじぇあ」
「ほだな、福の神なんぞ追っ払ってな、んだ、追っ払え、追っ払え」
若勢は、なんだがごっしゃぱらげで言ったけど。
「んだ、貧乏神様、塩引き焼けだがらよ、一杯食って元気出して。餅もごっつおすっから、力つけで、福の神なんぞ追っ払ってけらっしゃい」
って、嫁っ子も泣きながら笑って言ったけど。
貧乏神は、こだなすんばらしいごっつお食ったごどながったさげな、むしゃむしゃ夢中で食ったっけど。
「うわー、腹いっぱいごっつおなった。この家の若旦那、嫁子殿、ほんてんおおぎぃ(ありがとう)だっけもな」
「いがったなぇ。んだらば福の神追っ払う力ついだべ」
若勢もうれしぐなって言ったけど。
「んだ。んだ。追っ払え、追っ払え」
って、嫁っ子も言ったけど。
貧乏神もすっかり自信ついで、にこにこ笑っていっだけど。
とんとん、とんとん。戸ただぐ音したっけど。
「福の神来たぞ。福の神来たぞ。」
っておっきな声したっけど。
「おお、福の神が。待ってだぞ」
って、貧乏神、表さ出はったけど。
貧乏神ば見だ、福の神はおったまげで
「なんだて、なして、貧乏神いるんだ。んにゃは用済み。じゃまじゃま。ちゃっちゃど去れ。去れじゅ」って言ったけど。
福の神のしゃべっこど聞いっだけ貧乏神は、ごしゃげで
「なにほざぐ、今日はんにゃに負けねぞ」
って言ったけど。
「ほざいでんのはんにゃだべ。ちゃっちゃど去れず」
って福の神はやんだぐなったみでぇに言ったけど。
「貧乏神様、ごじゃごじゃ言ってねで、福の神ばはやっつけろ!」
って、後ろで眺めっだけ夫婦が言ったけど。
そいずば聞いだ貧乏神は勇気百倍。よーしって言って、福の神さ思いっきり体当たりしたっけど。
ほんでも、福の神はびくとしねっけど。
んだて、福の神は毎日ごっつお食って、太っていださげの、立った一回しかごっつお食ったごどない貧乏神ではかなわねもな。ほんでも、今日の貧乏神は別人だ、一回や二回ふっとばさっだて、諦めねで、福の神の腰さくらいついで言ったけど。
「のこった。のこった。」
夫婦は一生懸命貧乏神ば応援したけど。
「あっ、あぶない。」
「ほれ。ほれ。おらだぢついでる。」
「頑張れ!頑張れ!」
福の神は、いづもどすっかり勝手が違って、腹さ力入らなぐて、往生したんだど。
その隙ば見て取った貧乏神は、
「えーいっ!」
とばかりに、力いっぱい福の神ば投げ飛ばしたっけもな。
「痛でっ。痛でっ。こりゃなんとしたこんだ。おら福の神。あっちが貧乏神だっちゅうのに。こだなどごさおらいらんねっちゃ。」
って言うずど、福の神はぁしゃぁますしては、すたこらっささど、逃げで行ったけど。
福の神はぁ、あんまり慌てで逃げで行ったさげ、打ち出の小槌ば忘っで行ったんだど。
ほいずば、貧乏神が拾って、
「ほうれ、米でろ、味噌でろ、金もでろ」
て、打ち出の小槌ばふったれば、あどががら、あどがら、ざっくざっくどお宝ではったけど。
「あら、まんず、いづのまに、こだい立派なお姿に」
って、よめっこがたまげで言うずど、今度は若勢も、
「まるで、福の神さまだぁ」
ってたまげっだけど。
貧乏神は、ほだなごどはじめでいわっださげ、ちょべっとさだげね(恥ずかしく)なったげんとも、もう、しっかり福の神さなっていだっけど。
んだはげ、この家の守り神様は、貧乏神から福の神になって、ずうっとこの家さ住んでいだんだど。
この家は、ますます栄で、村一番の長者になって、夫婦仲良く、福の神と幸せに暮らしたんだど。
どんぺ、すかんこ、ねぇっけど。 (おしまい)
おぼこだの声が寝床から聞こえできだ。
今夜もばんちゃんは孫にとんと昔を語り継ぐ。
こうして、何百年も人の心ありようが受け継がれていぐんだべな。
ばんちゃん、ゆんべのつづき、つづき
んだが、つづぎが… んと、どごまで語っだけがな。
貧乏神が、貧乏神が、泣いだっけどこだじゅ。
んだ、んだ、貧乏神はぁなして泣いでいだんだけがな。
しゃねぇじゅ。なして、なして。ばんちゃん、はやぐ、はやぐ、つづきば
若勢が言ったけど。
「んにゃ、誰だんべ?
「おら、この家の貧乏神」
「なんと、こりゃたまげだ。んにゃ、貧乏神だでが」
嫁っ子が言ったけど。
「あら、おらいの家の守り神様、貧乏神だったんだがじゅ」
「うわ~っ…」
って、貧乏神は、大きな声で、まだ泣き出したけど。
「あらら、なしてほだい泣くのや」
若勢聞いだけど。
「なしてって、んにゃだ夫婦が、あんまり稼いですっかり貧乏でなぐなったさげ、今日、この家さ福の神が来るごどになってる。ほしたら、おら、この家ばぼだされるんだ。この家ぼださっでも、おら行くあてねぇもなぁ。ほだがら、悲しくって、泣いっだどごよ」
「あらら、ほだなごどだっけのが」
「貧乏神様、なんにもおらいの家おん出ていぐごなないよ、今までどおり、この家の守り神様でいでけらっしゃい」
って、嫁っ子も目さ泪ためながら言ったけど。
「んだて、ずげ、福の神くっじぇあ」
「ほだな、福の神なんぞ追っ払ってな、んだ、追っ払え、追っ払え」
若勢は、なんだがごっしゃぱらげで言ったけど。
「んだ、貧乏神様、塩引き焼けだがらよ、一杯食って元気出して。餅もごっつおすっから、力つけで、福の神なんぞ追っ払ってけらっしゃい」
って、嫁っ子も泣きながら笑って言ったけど。
貧乏神は、こだなすんばらしいごっつお食ったごどながったさげな、むしゃむしゃ夢中で食ったっけど。
「うわー、腹いっぱいごっつおなった。この家の若旦那、嫁子殿、ほんてんおおぎぃ(ありがとう)だっけもな」
「いがったなぇ。んだらば福の神追っ払う力ついだべ」
若勢もうれしぐなって言ったけど。
「んだ。んだ。追っ払え、追っ払え」
って、嫁っ子も言ったけど。
貧乏神もすっかり自信ついで、にこにこ笑っていっだけど。
とんとん、とんとん。戸ただぐ音したっけど。
「福の神来たぞ。福の神来たぞ。」
っておっきな声したっけど。
「おお、福の神が。待ってだぞ」
って、貧乏神、表さ出はったけど。
貧乏神ば見だ、福の神はおったまげで
「なんだて、なして、貧乏神いるんだ。んにゃは用済み。じゃまじゃま。ちゃっちゃど去れ。去れじゅ」って言ったけど。
福の神のしゃべっこど聞いっだけ貧乏神は、ごしゃげで
「なにほざぐ、今日はんにゃに負けねぞ」
って言ったけど。
「ほざいでんのはんにゃだべ。ちゃっちゃど去れず」
って福の神はやんだぐなったみでぇに言ったけど。
「貧乏神様、ごじゃごじゃ言ってねで、福の神ばはやっつけろ!」
って、後ろで眺めっだけ夫婦が言ったけど。
そいずば聞いだ貧乏神は勇気百倍。よーしって言って、福の神さ思いっきり体当たりしたっけど。
ほんでも、福の神はびくとしねっけど。
んだて、福の神は毎日ごっつお食って、太っていださげの、立った一回しかごっつお食ったごどない貧乏神ではかなわねもな。ほんでも、今日の貧乏神は別人だ、一回や二回ふっとばさっだて、諦めねで、福の神の腰さくらいついで言ったけど。
「のこった。のこった。」
夫婦は一生懸命貧乏神ば応援したけど。
「あっ、あぶない。」
「ほれ。ほれ。おらだぢついでる。」
「頑張れ!頑張れ!」
福の神は、いづもどすっかり勝手が違って、腹さ力入らなぐて、往生したんだど。
その隙ば見て取った貧乏神は、
「えーいっ!」
とばかりに、力いっぱい福の神ば投げ飛ばしたっけもな。
「痛でっ。痛でっ。こりゃなんとしたこんだ。おら福の神。あっちが貧乏神だっちゅうのに。こだなどごさおらいらんねっちゃ。」
って言うずど、福の神はぁしゃぁますしては、すたこらっささど、逃げで行ったけど。
福の神はぁ、あんまり慌てで逃げで行ったさげ、打ち出の小槌ば忘っで行ったんだど。
ほいずば、貧乏神が拾って、
「ほうれ、米でろ、味噌でろ、金もでろ」
て、打ち出の小槌ばふったれば、あどががら、あどがら、ざっくざっくどお宝ではったけど。
「あら、まんず、いづのまに、こだい立派なお姿に」
って、よめっこがたまげで言うずど、今度は若勢も、
「まるで、福の神さまだぁ」
ってたまげっだけど。
貧乏神は、ほだなごどはじめでいわっださげ、ちょべっとさだげね(恥ずかしく)なったげんとも、もう、しっかり福の神さなっていだっけど。
んだはげ、この家の守り神様は、貧乏神から福の神になって、ずうっとこの家さ住んでいだんだど。
この家は、ますます栄で、村一番の長者になって、夫婦仲良く、福の神と幸せに暮らしたんだど。
どんぺ、すかんこ、ねぇっけど。 (おしまい)
2007年10月27日
「貧乏の神と福の神1」 (最上)
「ばんちゃん、ばんちゃん、とんと昔、とんと昔、語ってけろ。」
おぼこだの声が寝床から聞こえできだ。
今夜もばんちゃんは孫にとんと昔を語り継ぐ。
こうして、何百年も人の心ありようが受け継がれていぐんだべな。
むがし、あったけど。
あるどごろさ、父ちゃんにも、母ちゃんにも、死に別っで、一人さみしく暮らしている若勢いだっけど。
若勢は、生きる甲斐ばなぐしては、気ぬげで、毎日、ぐだらぐだらど暮らしったけど。
そごさよ、そんげな家大好ぎで、さがし歩いっだっけ者いだど。
誰だど思う?
おぼこらが声をそろえで…
「貧乏神」
ばんちゃんが…
「んだ、貧乏神だじゅ!」
「おらぁ貧乏神だぁ、やっといいどご見つげだ。世話なんべ。こりゃあんばいいなぁ、まんず、まんず。」
って、言ってニコニコ笑っていだっけど。
ほうすっどよ、その家の若勢は、なお気抜げではぁ、ますますぐだらぐだら暮らすようなたっけど。
そげな若勢ば見っだけ村衆は、見るに見かねで、若勢さぁ嫁っ子世話して、なんとが立ち直らせんなんねなぁと、相談ぶったけど。
めでためでたの若松様よ~
今日はめでたいむがさり(結婚式)だぁ。
若勢はめっぽうめんこい嫁っ子さ、一目惚れ。
若勢と嫁っ子は、すぐ仲いいぐなって、若勢は嫁っ子のために、一所懸命、稼ぎだしたっけど。
んでも、なんぼ稼いでも、暮らしはさっぱりいいぐならねっけど。
そういずば見っだけ貧乏神が言ったけもな。
「ほいずぁ仕方ねぇな。おらがこの家さぁいる限り、貧乏だぁ。悪いげんども仕方ねもなぁ。」
んでも、この嫁っ子は、貧乏なんてさっぱり苦にすねで、朝から晩まで、若勢と一緒に稼いで、家の掃除ばしたり、障子ばはりがえだり、煤払いしたり、まんずやっちゃがねがっだ家、見違えできれいになったけど。
そんだけでねぇぞ。優しい嫁っ子は、飯たけば飯を、団子つくっど団子ば、貧乏神さお供えして、
「どうが家の守り神様、遠慮なぐすこだま上がってけない」
って、めんごい手ば合わせで、みすぼらしい神棚、拝んでいだっけど。
貧乏神は、なんだがけっつのあだり、むずむずしてきて、だんだん居心地悪ぐなってきたっけど。
んだたで、貧乏神はどさ行ったっで、邪魔者あつかい、さっだごはあっても大事にさっだごどなんぞながったもな。んだがら面食らってはぁ、困っていっだけど。
んでも、大事されっがら、出ていぐに出て行けず、三年あっという間にすぎだど。
今日は年取り。
晩げに、若勢が家さ帰ってきったけど。
嫁っ子さ、大きな塩引き(塩鮭)ば、土産だぁって言って渡したど。
「あらぁ、立派な塩引きだな。餅も搗けだし、こりゃ今年はいい年取りだぁじゅ。あんた、おら、うれしいじゅ。ほんてんおおぎぃ(ありがとう)」
って言うたけど。
夫婦が仲いぐしているどご、ながめっだけ貧乏神、めそめそ、えんえん、うわーんうわーんて、だんだん大きな声だして泣き出したっけど。
んだずど、その泣き声ば、聞きつけだ若夫婦、不思議に思って、顔を見わせ、
「誰だんべ。誰が泣いでる。」
って言うずど、夫婦はちっちゃい家の中、見回して見だっけど。
二人そろって神棚ほうば見だれば、ほごさぼろの着物でいがにも貧乏臭い神様がいっだけど。
夫婦は、びっくりして、
「んにゃ(お前様)誰だぁ?」
って聞いだけっど。
「おらぁ、貧乏神だぁ。」
「貧乏神?」
夫婦は聞きなおしていだっけど。
「んだ…」
「ほんてだべが、あんだ」
って嫁っ子が若勢さ言ったけど。
「ん~んっ。」
って若勢が息ふかぐ吸うずど、考え込んで、やっと貧乏神さ聞いだけど。
「んにゃ、貧乏神だで、なして泣いでんのや?」
「なしてって…」
貧乏神はぁ言ったけど。
なして、貧乏神泣いでいだんだべね。
つづぎはまだ明日な。
おぼごは寝らんなねは。
どんぺ、すかんこ、ねぇっけど。
「貧乏の神と福の神2」につづく
おぼこだの声が寝床から聞こえできだ。
今夜もばんちゃんは孫にとんと昔を語り継ぐ。
こうして、何百年も人の心ありようが受け継がれていぐんだべな。
むがし、あったけど。
あるどごろさ、父ちゃんにも、母ちゃんにも、死に別っで、一人さみしく暮らしている若勢いだっけど。
若勢は、生きる甲斐ばなぐしては、気ぬげで、毎日、ぐだらぐだらど暮らしったけど。
そごさよ、そんげな家大好ぎで、さがし歩いっだっけ者いだど。
誰だど思う?
おぼこらが声をそろえで…
「貧乏神」
ばんちゃんが…
「んだ、貧乏神だじゅ!」
「おらぁ貧乏神だぁ、やっといいどご見つげだ。世話なんべ。こりゃあんばいいなぁ、まんず、まんず。」
って、言ってニコニコ笑っていだっけど。
ほうすっどよ、その家の若勢は、なお気抜げではぁ、ますますぐだらぐだら暮らすようなたっけど。
そげな若勢ば見っだけ村衆は、見るに見かねで、若勢さぁ嫁っ子世話して、なんとが立ち直らせんなんねなぁと、相談ぶったけど。
めでためでたの若松様よ~
今日はめでたいむがさり(結婚式)だぁ。
若勢はめっぽうめんこい嫁っ子さ、一目惚れ。
若勢と嫁っ子は、すぐ仲いいぐなって、若勢は嫁っ子のために、一所懸命、稼ぎだしたっけど。
んでも、なんぼ稼いでも、暮らしはさっぱりいいぐならねっけど。
そういずば見っだけ貧乏神が言ったけもな。
「ほいずぁ仕方ねぇな。おらがこの家さぁいる限り、貧乏だぁ。悪いげんども仕方ねもなぁ。」
んでも、この嫁っ子は、貧乏なんてさっぱり苦にすねで、朝から晩まで、若勢と一緒に稼いで、家の掃除ばしたり、障子ばはりがえだり、煤払いしたり、まんずやっちゃがねがっだ家、見違えできれいになったけど。
そんだけでねぇぞ。優しい嫁っ子は、飯たけば飯を、団子つくっど団子ば、貧乏神さお供えして、
「どうが家の守り神様、遠慮なぐすこだま上がってけない」
って、めんごい手ば合わせで、みすぼらしい神棚、拝んでいだっけど。
貧乏神は、なんだがけっつのあだり、むずむずしてきて、だんだん居心地悪ぐなってきたっけど。
んだたで、貧乏神はどさ行ったっで、邪魔者あつかい、さっだごはあっても大事にさっだごどなんぞながったもな。んだがら面食らってはぁ、困っていっだけど。
んでも、大事されっがら、出ていぐに出て行けず、三年あっという間にすぎだど。
今日は年取り。
晩げに、若勢が家さ帰ってきったけど。
嫁っ子さ、大きな塩引き(塩鮭)ば、土産だぁって言って渡したど。
「あらぁ、立派な塩引きだな。餅も搗けだし、こりゃ今年はいい年取りだぁじゅ。あんた、おら、うれしいじゅ。ほんてんおおぎぃ(ありがとう)」
って言うたけど。
夫婦が仲いぐしているどご、ながめっだけ貧乏神、めそめそ、えんえん、うわーんうわーんて、だんだん大きな声だして泣き出したっけど。
んだずど、その泣き声ば、聞きつけだ若夫婦、不思議に思って、顔を見わせ、
「誰だんべ。誰が泣いでる。」
って言うずど、夫婦はちっちゃい家の中、見回して見だっけど。
二人そろって神棚ほうば見だれば、ほごさぼろの着物でいがにも貧乏臭い神様がいっだけど。
夫婦は、びっくりして、
「んにゃ(お前様)誰だぁ?」
って聞いだけっど。
「おらぁ、貧乏神だぁ。」
「貧乏神?」
夫婦は聞きなおしていだっけど。
「んだ…」
「ほんてだべが、あんだ」
って嫁っ子が若勢さ言ったけど。
「ん~んっ。」
って若勢が息ふかぐ吸うずど、考え込んで、やっと貧乏神さ聞いだけど。
「んにゃ、貧乏神だで、なして泣いでんのや?」
「なしてって…」
貧乏神はぁ言ったけど。
なして、貧乏神泣いでいだんだべね。
つづぎはまだ明日な。
おぼごは寝らんなねは。
どんぺ、すかんこ、ねぇっけど。
「貧乏の神と福の神2」につづく