2007年12月13日
「なるともる」 (村山-方言版)
とんと昔あったけど。
ある山の中さ、じさまどばさま住んでいだっけど。
ある日、夜もふけで、じさまどばさま囲炉裏端で夜なべ仕事しったけど。
じさまは竹でふご編んで、ばさまは糸繰したっけど。
じさま手ば休めでばさまさきいだけど。
「ばさまよ、この世の中で一番おっかない(怖い)ものなんだべね?」
ばさま、糸繰の手ば止めで、じさまの顔ばみで、囲炉裏の火ばいじりながら言ったけど。
「んだね、おら世の中で一番おっかないものはよ、なるどもる、だべね。」
「ほう、ばさも、なるどもる、が、おっかねぇってが。」
「んだな………。」ばさま、しみじみうなずいだっけど。
ほしたら、二人の話ば天井裏できいだけ者いだっけど。
ほいずは、じさまが大事に育でっだ馬っ子ばねらってだ馬泥棒だっけど。
馬泥棒は、二人の話、きいでちょっとみぶるいしたっけど。
んだたて、この馬泥棒「なりともる」なんて言うバケモノのごど初めできいだもんださげ、おかなぐなったのだなね。
ほしたらよ、ちょうどほさオオカミ来て、二人の話っ子きいだけど。
ほのオオカミも、じさまの馬っ子ば狙っていだんだけど。
オオカミはよ、人間はおれのごどばずいぶんおっかないと思っていだはずだげんとも、おれよりおっかないど思っているバケモノいだなんて、しゃぁねがった。ほしたらほだなバケモノ来る前に、おらがじさまの馬っ子いただぐべはとおもたんだど。
夜もふけで、じさまどばさま寝でしまったがら、泥棒どオオカミは、それ今だって言うんで、泥棒は天井裏からするりと馬小屋さとびおっで、オオカミのほうは明り取りの窓から馬小屋さ忍び込んできたけど。ほしたら泥棒は、ちょうどいやんばいにオオカミの背中さ、ひょこんて乗ってしまったけど。
馬小屋はまっくらだっけがら、泥棒はオオカミの背中で、この動く得体の知れねのが「なるともろ」だとおもったけど。オオカミはオオカミで、急に背中さ乗ってきたのが、こりゃ「なるともる」だんべがと思ったけど。
泥棒もオオカミも、」ほんでぶったまげであわてで、逃げ出して行ったけど。
ほんで、じさまの馬っ子は無事だっけど。ほだなごどあったどは、さっぱりしゃぁねじさまばさまは、今夜も夜なべさ精出したっけど。
どんぴん、さんすけ、ねぇっけど。
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ある山の中さ、じさまどばさま住んでいだっけど。
ある日、夜もふけで、じさまどばさま囲炉裏端で夜なべ仕事しったけど。
じさまは竹でふご編んで、ばさまは糸繰したっけど。
じさま手ば休めでばさまさきいだけど。
「ばさまよ、この世の中で一番おっかない(怖い)ものなんだべね?」
ばさま、糸繰の手ば止めで、じさまの顔ばみで、囲炉裏の火ばいじりながら言ったけど。
「んだね、おら世の中で一番おっかないものはよ、なるどもる、だべね。」
「ほう、ばさも、なるどもる、が、おっかねぇってが。」
「んだな………。」ばさま、しみじみうなずいだっけど。
昔はよく飢饉があって、年貢ば納めっど、百姓の食い物がなくなって、米びつ空になって、底ばただぐどポンポンなったけがら、ほいずば「なる」って言ったんだけど。百姓の住まいはたいてい掘っ立て小屋だっけがら、よく雨漏りしたっけど。ほいずば「もる」っていったけどもな。
ほしたら、二人の話ば天井裏できいだけ者いだっけど。
ほいずは、じさまが大事に育でっだ馬っ子ばねらってだ馬泥棒だっけど。
馬泥棒は、二人の話、きいでちょっとみぶるいしたっけど。
んだたて、この馬泥棒「なりともる」なんて言うバケモノのごど初めできいだもんださげ、おかなぐなったのだなね。
ほしたらよ、ちょうどほさオオカミ来て、二人の話っ子きいだけど。
ほのオオカミも、じさまの馬っ子ば狙っていだんだけど。
オオカミはよ、人間はおれのごどばずいぶんおっかないと思っていだはずだげんとも、おれよりおっかないど思っているバケモノいだなんて、しゃぁねがった。ほしたらほだなバケモノ来る前に、おらがじさまの馬っ子いただぐべはとおもたんだど。
夜もふけで、じさまどばさま寝でしまったがら、泥棒どオオカミは、それ今だって言うんで、泥棒は天井裏からするりと馬小屋さとびおっで、オオカミのほうは明り取りの窓から馬小屋さ忍び込んできたけど。ほしたら泥棒は、ちょうどいやんばいにオオカミの背中さ、ひょこんて乗ってしまったけど。
馬小屋はまっくらだっけがら、泥棒はオオカミの背中で、この動く得体の知れねのが「なるともろ」だとおもったけど。オオカミはオオカミで、急に背中さ乗ってきたのが、こりゃ「なるともる」だんべがと思ったけど。
泥棒もオオカミも、」ほんでぶったまげであわてで、逃げ出して行ったけど。
ほんで、じさまの馬っ子は無事だっけど。ほだなごどあったどは、さっぱりしゃぁねじさまばさまは、今夜も夜なべさ精出したっけど。
どんぴん、さんすけ、ねぇっけど。
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2007年12月08日
「カスベとカラカイ」 世間話 (置賜-方言版)
むかしあったけど。
あるどごろさ珍しいもん好きの殿様いだっけっど。
毎年、いっぱいいっぱい珍しいもの届けらだっけど。
ある年の暮れ、魚、お城さ届いたど。
ほんで、あんまり珍しい魚だもんだがら、誰も名前も食べ方だもしゃねがったど。
ほこで殿様は、国中のものさふれだして、魚の名前たずねでみだっけど。
名前知ってだ者さは金五両ほうびだすっていったけど。
ほうすっど、ある村の物知りじさまが、城さいって魚ば見で言ったけど。
「こいずぁ、カスベって言うもんだ」
殿様は、ほいずば聞いでたいそう喜んで、ほの物知りじさまさ五両のほうびやたっけど。
おもしゃぐねえのはおおぜいの役人衆でな、しばらぐして、ほの魚が干物になったどごろで、まだ、物知りじさまば呼んで、魚の名前たずねだっけど。
じさまは一目魚見っずど、「こいずぁ、カラガイって言うもんだ」っていったけど。
お役人衆は、鬼の首とったみでいにごしゃいで、物知りじばさま「このずほ(嘘)こぎじさま」って言って牢屋さぶちこんでしまったけど。
ほだたて、干物になる前の魚ば「カスベ」と言って、干物になしたら「カラガイ」なんてな、おがしいべ、こいずはずほ(嘘)こいでるってわげだ。
殿様もごしゃいでは、首ば切れってと言ったけど。
ほんで、死ぬ前に一つだけじさまの願いば聞いでやるごどにしたっけど。
じさまは、さいごに自分の息子さ一目逢うだいといったけど。
さっそく息子がお城さよばっで、じさまと逢ったけど。
じさまは息子さこう言って聞かせだっけど。
「息子よ、お前も俺に負けずに物知りだげんとも、けして物知りば鼻にかけでなんねぇ。自分が勉強しただごどば他人さ自慢げにしゃべっど、俺みでいに首切られっぞ。んだたてよ、生のイカば干物にすっどスルメだべ。生のカスベば干物にすっどカラガイになる。ほだな道理もしゃぁね殿様は困ったもんだ」って言ったけど。
ほの話ば聞いだ殿様は、ひざはハタとただいで、ほのじさまさわびで、首きりば取り止めで、カラかイばいっぱいじさまさけだっけど。
次の正月、じさまの家ではいっぱいカラガイ煮で、村の衆さふるまってよろごばだっけど。
どっぴんからりん、すからりん
あるどごろさ珍しいもん好きの殿様いだっけっど。
毎年、いっぱいいっぱい珍しいもの届けらだっけど。
ある年の暮れ、魚、お城さ届いたど。
ほんで、あんまり珍しい魚だもんだがら、誰も名前も食べ方だもしゃねがったど。
ほこで殿様は、国中のものさふれだして、魚の名前たずねでみだっけど。
名前知ってだ者さは金五両ほうびだすっていったけど。
ほうすっど、ある村の物知りじさまが、城さいって魚ば見で言ったけど。
「こいずぁ、カスベって言うもんだ」
殿様は、ほいずば聞いでたいそう喜んで、ほの物知りじさまさ五両のほうびやたっけど。
おもしゃぐねえのはおおぜいの役人衆でな、しばらぐして、ほの魚が干物になったどごろで、まだ、物知りじさまば呼んで、魚の名前たずねだっけど。
じさまは一目魚見っずど、「こいずぁ、カラガイって言うもんだ」っていったけど。
お役人衆は、鬼の首とったみでいにごしゃいで、物知りじばさま「このずほ(嘘)こぎじさま」って言って牢屋さぶちこんでしまったけど。
ほだたて、干物になる前の魚ば「カスベ」と言って、干物になしたら「カラガイ」なんてな、おがしいべ、こいずはずほ(嘘)こいでるってわげだ。
殿様もごしゃいでは、首ば切れってと言ったけど。
ほんで、死ぬ前に一つだけじさまの願いば聞いでやるごどにしたっけど。
じさまは、さいごに自分の息子さ一目逢うだいといったけど。
さっそく息子がお城さよばっで、じさまと逢ったけど。
じさまは息子さこう言って聞かせだっけど。
「息子よ、お前も俺に負けずに物知りだげんとも、けして物知りば鼻にかけでなんねぇ。自分が勉強しただごどば他人さ自慢げにしゃべっど、俺みでいに首切られっぞ。んだたてよ、生のイカば干物にすっどスルメだべ。生のカスベば干物にすっどカラガイになる。ほだな道理もしゃぁね殿様は困ったもんだ」って言ったけど。
ほの話ば聞いだ殿様は、ひざはハタとただいで、ほのじさまさわびで、首きりば取り止めで、カラかイばいっぱいじさまさけだっけど。
次の正月、じさまの家ではいっぱいカラガイ煮で、村の衆さふるまってよろごばだっけど。
どっぴんからりん、すからりん