2007年11月15日
「やきもち鏡 2 」 (置賜)
続きはこうだっけ。
頓吉は殿様に頂いた漆塗りの箱を、大事に家に持ち帰って、仏壇に供えて三年待ったけど。三年目のその日、頓吉は、家の者に仏間に近づいてはならいと申し付けて、夜になると一人仏間に入って、あの漆塗りの箱のふたをそっと開けて見だっけど。
そしたら、ビックリ、本当に頓吉の父親の顔が、その箱の中にいだっけど。頓吉は思わず、嬉しくて笑いがこぼれだっけど。そうしたら、箱の中の父親も、同じように笑っているではないか。そのうち、父親が亡くなった悲しみがこみ上げできて、頓吉は思わず泪が流れてきたっけど。そうすると、また、箱の中の父親も、同じように泪を流しているではないか。頓吉は不思議でならなくて、さすがは、殿様のご褒美のことだけはあると思って、知らずに、箱の中に父親に手を合わせて蓋を閉め、また仏壇にお供えしておったど。
そして、そんなことが七晩続いたっけど。
七晩も頓吉が夜になると仏間にこもるのは何故か? 頓吉の女将さんが怪しみ出すのも当然だ。女将さんは、これは怪しいと言うので、頓吉が留守の昼間に、仏間に入り、あの漆塗りの箱の蓋を開けてみたっけど。そうしたら、箱の中には、見た事もない美人の女の人がいだっけど。女将さんは、頓吉が自分に内緒で、毎晩、この女と浮気していたのだと思い込んで、頓吉が帰ってきたところで、悋気の火花を頓吉にぶつけだっけど。
頓吉は身に覚えのない女将さんの悋気に当惑して、言い訳がましく、亡くなった父親に親孝行しているだけだと、話をしたんだど。
それでも、そんなことは女将さんには信じられない。見え透いた嘘だろうと、さらに怒りをあらわにして、頓吉を引っ掻いたりぶったりして、なかなか治まる気配がない。
そこでしかたなく頓吉は、女将さんと一緒に仏間に入り、漆塗りの箱の蓋を開けて見だっけど。すると、そこには夫婦の顔が映っていたのだけれど、女将さんは興奮していたためか、女の人の顔が自分の顔であることに気づかずに、頓吉を押し倒してぶち続けだけど。
頓吉はたまらず、ほれよーく見てみろ。ここには俺の父親が映っているだけだ、と言って、女将さんに、箱を向けたのだが、そこには女将さんの顔が映っていたっけのよ。
頓吉は、はっとして、ようやく殿様の頓知に気がついで、「まてまて」と、女将さんを何とかなだめて、殿様の頓知のわけを話してきかせだっけど。
「ほら見で見ろ。ここに映っている美人は、お前の顔ではないか」と、頓吉が女将さんに言うと、女将さんは顔を真っ赤にして、恥ずかしながら、頓吉に抱きついて、その晩は、夫婦仲良く、同じ布団に入って寝だっけど。
それから、その漆の箱は、頓吉の家の大事な家宝として、代々、大事に受け継がれていったと言うことじゃ。
とんぴん、さんすけねぇっけど。
頓吉は殿様に頂いた漆塗りの箱を、大事に家に持ち帰って、仏壇に供えて三年待ったけど。三年目のその日、頓吉は、家の者に仏間に近づいてはならいと申し付けて、夜になると一人仏間に入って、あの漆塗りの箱のふたをそっと開けて見だっけど。
そしたら、ビックリ、本当に頓吉の父親の顔が、その箱の中にいだっけど。頓吉は思わず、嬉しくて笑いがこぼれだっけど。そうしたら、箱の中の父親も、同じように笑っているではないか。そのうち、父親が亡くなった悲しみがこみ上げできて、頓吉は思わず泪が流れてきたっけど。そうすると、また、箱の中の父親も、同じように泪を流しているではないか。頓吉は不思議でならなくて、さすがは、殿様のご褒美のことだけはあると思って、知らずに、箱の中に父親に手を合わせて蓋を閉め、また仏壇にお供えしておったど。
そして、そんなことが七晩続いたっけど。
七晩も頓吉が夜になると仏間にこもるのは何故か? 頓吉の女将さんが怪しみ出すのも当然だ。女将さんは、これは怪しいと言うので、頓吉が留守の昼間に、仏間に入り、あの漆塗りの箱の蓋を開けてみたっけど。そうしたら、箱の中には、見た事もない美人の女の人がいだっけど。女将さんは、頓吉が自分に内緒で、毎晩、この女と浮気していたのだと思い込んで、頓吉が帰ってきたところで、悋気の火花を頓吉にぶつけだっけど。
頓吉は身に覚えのない女将さんの悋気に当惑して、言い訳がましく、亡くなった父親に親孝行しているだけだと、話をしたんだど。
それでも、そんなことは女将さんには信じられない。見え透いた嘘だろうと、さらに怒りをあらわにして、頓吉を引っ掻いたりぶったりして、なかなか治まる気配がない。
そこでしかたなく頓吉は、女将さんと一緒に仏間に入り、漆塗りの箱の蓋を開けて見だっけど。すると、そこには夫婦の顔が映っていたのだけれど、女将さんは興奮していたためか、女の人の顔が自分の顔であることに気づかずに、頓吉を押し倒してぶち続けだけど。
頓吉はたまらず、ほれよーく見てみろ。ここには俺の父親が映っているだけだ、と言って、女将さんに、箱を向けたのだが、そこには女将さんの顔が映っていたっけのよ。
頓吉は、はっとして、ようやく殿様の頓知に気がついで、「まてまて」と、女将さんを何とかなだめて、殿様の頓知のわけを話してきかせだっけど。
「ほら見で見ろ。ここに映っている美人は、お前の顔ではないか」と、頓吉が女将さんに言うと、女将さんは顔を真っ赤にして、恥ずかしながら、頓吉に抱きついて、その晩は、夫婦仲良く、同じ布団に入って寝だっけど。
それから、その漆の箱は、頓吉の家の大事な家宝として、代々、大事に受け継がれていったと言うことじゃ。
とんぴん、さんすけねぇっけど。
2007年11月15日
「やきもち鏡 1 」 (置賜)
むがしあったずもな。
ある村さよ「とんち」好きの殿様がいだっけど。ほんで、毎年、「とんち祭り」開いでいでよ、今年もほんてん変な問題ば出したっけど。その問題って言うのはよ、灰で縄ばなってみろっていうものだけっど。
ところが、この殿様に、さらに輪をかけたような「とんち好き」の百姓がいだっけど。
名前は頓吉《とんきち》と言ったけど。
頓吉は、幾晩も考え続けて、「とんち祭り」の日に、殿様の前に進み出て、鉄鍋を献上したっけど。その鍋の中には、見事な灰でできた縄が入っていたっけど。
殿様はその灰でできた縄を見てビックリしてしまって、腰を抜かした程だっけど。殿様は、頓吉にどんな方法でこの縄を作ったのか訊ねたっけずもな。
頓吉はさも自慢げに話したっけど。
「ほいずぁ簡単なごどであんす。普通に縄ばなってから、鍋にぶっ込んで火を付けで灰にしただけであんす」
「ほう、そうであったか。頓吉、いつもながら見事な頓知である。褒めてとらす。褒美をつかわそう。望みのものを申せ。」
「へぃ。」と、頓吉はしばらく考え込んでから、殿様にこう申し上げたそうな。
「あの、殿様、おら、物はいらね。ただ、去年亡くなった親爺にも一度会って、親孝行の真似事がしたいと思いやす。」
殿様はその望みを聞いてしばらく考え込んでから頓吉に言ったけずもな。
「頓吉、お前の孝行心には、頭が下がるの。まさしくわが領民の鏡である。お前の望みをかなえてやろう。」と、ご機嫌だっけど。
「へぃ、さすがは殿様。ありがたいことで。」
頓吉は殿様にお辞儀をしていたら、「ほら、これをつかわす。」と、殿様が、漆塗りの立派な箱を下さったけど。そしてこう言い足しっけど。
「そうじゃの、これから三年の後、この箱を開けて、中を覗いてみよ。さすれば、そこにお前の父親が必ずいる。必ずにな。ただしその箱を開けるときは、部屋には誰も入れずに、お前一人で開けることに限るぞ。さもなければ、父親はたちまち消えてしまうからな。」と、念押しをして、渡してよこしたっけど。
続きはまだあどで………
ある村さよ「とんち」好きの殿様がいだっけど。ほんで、毎年、「とんち祭り」開いでいでよ、今年もほんてん変な問題ば出したっけど。その問題って言うのはよ、灰で縄ばなってみろっていうものだけっど。
ところが、この殿様に、さらに輪をかけたような「とんち好き」の百姓がいだっけど。
名前は頓吉《とんきち》と言ったけど。
頓吉は、幾晩も考え続けて、「とんち祭り」の日に、殿様の前に進み出て、鉄鍋を献上したっけど。その鍋の中には、見事な灰でできた縄が入っていたっけど。
殿様はその灰でできた縄を見てビックリしてしまって、腰を抜かした程だっけど。殿様は、頓吉にどんな方法でこの縄を作ったのか訊ねたっけずもな。
頓吉はさも自慢げに話したっけど。
「ほいずぁ簡単なごどであんす。普通に縄ばなってから、鍋にぶっ込んで火を付けで灰にしただけであんす」
「ほう、そうであったか。頓吉、いつもながら見事な頓知である。褒めてとらす。褒美をつかわそう。望みのものを申せ。」
「へぃ。」と、頓吉はしばらく考え込んでから、殿様にこう申し上げたそうな。
「あの、殿様、おら、物はいらね。ただ、去年亡くなった親爺にも一度会って、親孝行の真似事がしたいと思いやす。」
殿様はその望みを聞いてしばらく考え込んでから頓吉に言ったけずもな。
「頓吉、お前の孝行心には、頭が下がるの。まさしくわが領民の鏡である。お前の望みをかなえてやろう。」と、ご機嫌だっけど。
「へぃ、さすがは殿様。ありがたいことで。」
頓吉は殿様にお辞儀をしていたら、「ほら、これをつかわす。」と、殿様が、漆塗りの立派な箱を下さったけど。そしてこう言い足しっけど。
「そうじゃの、これから三年の後、この箱を開けて、中を覗いてみよ。さすれば、そこにお前の父親が必ずいる。必ずにな。ただしその箱を開けるときは、部屋には誰も入れずに、お前一人で開けることに限るぞ。さもなければ、父親はたちまち消えてしまうからな。」と、念押しをして、渡してよこしたっけど。
続きはまだあどで………