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2007年11月22日

「へらへらのへら 3」 (置賜-方言版)

「へらへらのへら 3」 (置賜-方言版)

第三回 (全三回)

ゆめちゃん、ママが作ってくれたオムレツ美味しかったね。おしげばんちゃんも残さずぜんぶたべちゃった。
ゆめちゃんもぜんぶ食べたよ。
腹いっぺ。ふーっ。
今日は日曜だけど、パパとママはご用でおでかけなんだって。
ん、でもゆめちゃんはおしげばんちゃんと、家でとんと昔聞いたり、お絵かきしたりしったほうがたのしいがら………
んだが、今日はいっぺいとんと昔、聞かせでやっからな。
ウワ~ ほんてん。
ほんてんだよ。やくそくげんまん。嘘ついだら針千本のます。
まんず、お茶っこのんで、口のまわりよぐしてがらな。
ゆめちゃんも飲むが?
ん、のむ。
古い火鉢でちゅんちゅん鉄瓶が音たて、静かに湯気があがっている。おしげばんちゃんの隠居部屋は、母屋とは別棟で渡り廊下で行き来する。掘り炬燵に孫と祖母がならんで仲良く時をすごす。
さぁ、お茶はいったよ。あっづいがら気いつけでな。
うん、少しさましてがらのむ。
湯のみ茶碗を両手で包み込むように持ったおしげばんちゃんは、んだらば、昨日のつづきだね。ゆめちゃん昨日の話しおぼえっだが?
ん、おぼえっだ。団子作りのじょんだばんちゃんが、鬼からどごがさらわっで行ってしまって、お地蔵さま、うんまい団子食べらんねぐなって、がっかりしたどこまでだよ。
ゆめちゃんよぐおぼえっだな。
んじゃつづきはじめっぞ。
うん………

………間………

鬼だちが住んでいるどごろは、地獄の三丁目の「鬼釜温泉」ていってな、地元のひとにはけっこう評判がいい。鬼だちは旅館ば何軒かたでで、商売しったけど。人間て言うのは、怖いもの見たさがあっから、最近、噂になって日本全国から客の予約が入ってよ、このどごろけっこう忙しいがったど。
さらわっじゃ、団子作りのばんちゃんは、大きな鍋にお湯がもうもうと沸いているまえさちぇでこらっで、「ほら、ここでままたいでけろ(ご飯を炊いて)」と、鬼からたのまだっけど。
「おい、鬼、まま炊けて言っても、肝心の米がなくてはまま炊がんね。米はどさある?」て、聞いだけど。
「あっ、んだけな。米が。ちょっとまってろ」て言うずど、鬼は自分の人さ指ば、鼻の穴に突っ込んで、鼻くそを一粒まるめで、ばんちゃんさよごしたけど。
「なに、こいづが米だてか? ずいぶん汚いし、一粒ばりあってもままにならね」
「なんだ、ばんちゃんは、なんにもしゃねのが」
「こら、鬼、おらば馬鹿にしたな。だって、ゆんべお地蔵さまんどっからさらわっできたばっかすだものしかたねべ!」
「あらら、ほだけっがしたん。ほいずぁしゃねがった。ほしたらまんず、鼻くそば鍋さほうり込んで、このへらでいっぺんかましてみろ。」って、鬼は、これも大きな木のへらば、ばんちゃんさよごしたけど。
ばんちゃんは、鬼に言われるまま、鬼の鼻くそを鍋さほうりいれ、力いっぱいへらでかましてみだら、これは、不思議。たちまち、鍋のながら、ムクムク、ムクムクって、真っ白い米のまま(飯)湧いできたがど思うど、たちまぢ炊き上がったけど。
ばんちゃん、あまりに見事なまま(ご飯)炊けだがら、こしぬかしたけど。
ほしたら、鼻くその鬼が、ばんちゃんさ、「このへらはな『へらへらのへら』という、世にも珍しい法力もったへらでな、米だけでなくて、鼻くそでも、砂つぶでも、なんでも米に代え、量も万倍に増やしてくれるんだ。このへらは地獄のお宝だぁ。」って、自慢したけど。
ほしたら、まま炊けだってみんな集まってきて、うんまいうんまいって、食ったけど。
あいずぁ、鬼の鼻くそなんだげんともね。
腹すかしったっけ、鬼どもが、きゅうに一杯食ったもんだがら、みんな気ままに寝込んでしまったけど。鬼は腹一杯になっど必ず寝るもんだがらな。
なんだが、ゆめちゃんみでなえ。
おら、ごはん食ったあど、寝だりすねよ。
んだっけな。ほんでも、ばんちゃんは考えだ。この隙だったら、必ず逃げ出せるんであんめぇがってよ。善は急げって言うんで、ばんちゃんは『へらへらのへら』っていうへらばかついで、すたこらさっさど地獄がら逃げ出したど。
地獄では鬼どもが目覚まし、ばんちゃん逃げ出したごど知れで、さっそく追ってばよごしたけど。
追いつ追われつ、どっちも必死、
ばんちゃんは体ちゃっこいがらって、ほんてんすばしっこい。年はとしだげんとも、ほだなごどは関係ね。
しばらぐいぐど、大きな川さぶつかったけど。
看板ば見っど、一級河川「三途の川」って書いであったけど。
ちょうどほさよ、上から、大きな笹の葉、流っできたっけがら、ばんちゃんは迷わず、ほの笹の葉さとびのってにげだっけど。
ほんでも鬼どもは、川のながでもかまわずジャブジャブ走っておっかげで来たけっど。
だんだんによ、おいつがれそうになってきたけど。ばんちゃんは、かついだっけ『へらへらのへら』で、力いっぱい水ばこいでみだんだど。ほしたら川の水いっぺんに万倍になって、鬼だちや、てんでに溺っで、ばんちゃんばおっかげんのあぎらめだっけど。

………間………

無事に村さもどてきたばんちゃんは、とるものものとりあえず、お地蔵さまの前さ行って、おかげでなんとか無事に戻ってきたごどはなしたど。
「お地蔵さま、お地蔵さまのお蔭で、鬼に食われることもなぐ、元気に戻るごどできだがら、今度は、毎日、お地蔵さまさ、団子こしぇで、お供えさせもうがらな。」って言ったけど。
「あどよ、おれ、地獄から『へらへらのへら』っていうへら持て来てしまったげんとも、こいずぁ、返したほうがいいがんべね? お地蔵さま。なんたもんだっす」
「よい、よい。ほいずぁはもうばんちゃんのものだ。返すに及ばず。」って、地藏さまニコニコわらたっけど。
「ははぁ、ありがだいごで………」
「ほのかわり、ほのへらば、自分のためにだけ使ってはならぬ。村の衆のために末永く使うがよいぞ。」

………間………

二・三日して、お地蔵さまの前の広場に、村の衆がおおぜい集まって、笛や太鼓、鉦などもおおぎょうに囃したて、まるでお祭りみでな騒ぎだけっど。
広場のまんながさは、大きな鍋すえらっで、お湯がモウモウ湯気たでで、ばんちゃんは、鼻くそほじくってまるめで鍋の中がさほうりこんだど。ほして、『へらへらのへら』でかますど、たちまち、真っ白いまま炊き上がって、みんなで腹いっぱい食ったけど。
どんぴからりんすっからりん。

  


Posted by ほんねず at 03:11Comments(0)山形の民話(置賜方言版)

2007年11月21日

「へらへらのへら 2」 (置賜-方言版)

「へらへらのへら 2」 (置賜-方言版)

第二回 (全三回)

設定:祖母-おしげ 孫-ゆめちゃん(四歳)
ゆめちゃん、きんな(昨日)の話っ子おぼえっだが?
ん、おぼえっだよ、ちゃんと。
信心深いばんちゃんが、団子こしぇで、ほの団子がころころころころがって、ほいずば、お地蔵さま、食って、うまがったって笑ったっけど………ほんねっけが? んだべ。
んだ、んだ、ゆめちゃんは賢いずね。
ばんちゃん、話っ子の続き、はやぐ………
んだね、こっからおもしゃぐなっからな。

………間………

ドン、ドン、ドン………。
どごがらがすごい音してきたっけど。
雷の音でもね。どんづき(地固め)の音でもね。
なんの音だがわがんねくて、ばんちゃんはおかなくて(怖くて)ぶるぶる震えだっけど。
ほうすっど、お地蔵さまが、「おれの後ろさかぐっでいろ。」って言ったけど。
「んだがって………」 ばんちゃん、お地蔵さまの後ろさかぐっだっけど。
ドン、ドン、ドン………。
ほの音、なんの音だが、ゆめちゃんはわがっか?
おら、わがらねずぅ。ほだいおっきな音だっけの。
んだよ。この世の音とはおもわんねっけど。
うわ~っ。おっかねえぇ。
ゆめちゃんは、ばんちゃんさ抱きついだ。
ハハハッ。だいじょうぶだ。
ほの、ばんちゃんも、お地蔵さまさ、おっかねぇって言って、抱きついだっけど。
ドン、ドン、ドン………。
「腹へった。腹へった。なにかうまい食い物ねぇが?」って、鬼が、いっぱいきたんだっけど。鬼は赤いのや青いのや黄色いのやいろいろいでよ、あだまさは角はえで、口は耳までさけでいただっけど。ほの大きさは、ばんちゃんから見っど、天にもとどぐんであんめぇがっていうぐらい大っきぐ見えだもな。まんず、足のすねど石みでいにゴヅゴヅした膝小僧ぐらいしか見えくて、ばんちゃんは、鬼の足の親指ぐらいしかねぇっけど。
鬼だちは、お地蔵さまのどころまでくっど、鼻ばピクピクさせでよ、「人くせい、人くせい。おい、地蔵、人かぐしていねが?」って、あちゃこちゃ、さがしたんだけど。
クン、クン、クン。鬼はよ、ほんてん、鼻きぐんだね。あっというまに、お地蔵さまの後ろさかぐっでいだっけ、ばんちゃんば見つけでよ、着物のえりくびつかんで、ひょいともちあげだっけど。
ばんちゃんは、たまげで、「助けでけろっ!」って、さけんだっけど。
鬼は、ばんちゃんば見で、「なんだごだなしなびばんちゃんか。食ってもうまぐねべな。」って言ったけど。
「んだな。ごだなしなびばんちゃんか。食ってもうまぐねべな。ほだ、ままたき(飯炊き)ばんちゃんにしたらいいんでねべが?」って、べつな鬼、言ったけど。
「んだ。んだ。んだ。」って鬼だちは、みな言ったけど。
「おい、地蔵、ほしたら、ばんちゃんば、ままたぎどしてもらいうける! いいべな」
「ほいずぁ、困った。おれ、ばんちゃんのうんまい団子食わんねぐなっべしたん。」って、お地蔵さまがっかりしたんだけど。
「鬼どもがら、ばんちゃん見つかったんだばしかね。つれでいげ。ほのかわり、ばんちゃんば食ったりしたら承知しねぞ。ほの、ばんちゃんは、毎日、神も仏も、こころふかく信心していて、阿弥陀さまも、ばんちゃんの徳にまさるものはね。って言ってござるぐらいだがらな、ほのばんちゃんば食たりすっど、たちまち、阿弥陀さまの罰あだっぞ。」
「地蔵、いいごどおしぇでけだなえ。おらだは、このばんちゃんは食わね。ままたき(飯炊き)さすっから。」って、鬼はお地蔵さまさ、ほう言うど、
カンラ、カンラカラカラ。カンラ、カンラカラカラ。って大きな声で笑いながら、もどきた道ば、もどっていったど。
鬼どもは、ばんちゃんばつれでどごさ帰っていくんだべつね。
ゆめちゃん、知ってだが?
おらしゃねよ。
どごだべね? おっかないどごだべが?
ほして、ばんちゃんはどうなるんだべ?
………間………
話っ子長くなたがら、まだ明日な………
おら、おっかねぐてねむらんねじゃ。
うんだが、ばんちゃん、ゆめちゃん、大好きな子守唄、うたっでけっから。
ほんてん。ばんちゃん。
ん、んだがらはやぐねっべは、なっ。
ん………。
ゆめちゃんは、ばんちゃんと一緒に布団さはいって、ちっちゃい目ば閉じた。
ばんちゃんは、ゆめちゃんに添い寝をしながら………
  ♪ おら家の おぼこば
    誰泣かせた
  誰も泣かせぬげんど
  おとりで泣いだんだ
  ねろねろや ほらほらや
   オワイヤレ オワイヤレヤ
   ねんねこっこ ねんねこっこや
おしげばんちゃんは、ゆめこちゃんさ、子守唄聞かせだ。いずのまにが、ゆめちゃんは寝だっけど。
  


Posted by ほんねず at 21:16Comments(0)山形の民話(置賜方言版)

2007年11月21日

「へらへらのへら1 」 (置賜-方言版)

「へらへらのへら1 」 (置賜-方言版)

「ばんちゃん、ばんちゃん、とんと昔、とんと昔、語ってけろ。」
おぼこたちの声が寝床から聞こえてきた。
今夜もばんちゃんは、孫にとんと昔を語りつぐ。
こうして、何百年も人の心のありようが受けつがれていぐんだべな。


設定:祖母-おしげ 孫-ゆめちゃん(四歳)

第一回 (全三回)

おら、ばんちゃんのとんと昔、おもしゃ(面白い)くて、大好きだぁ。
んだが、ゆめちゃん、おしょうしな(ありがとう)。
んだがら、まだ話っ子聞くだいな。
んだが、んだが、よしわがった。んだらまだ一づ話っ子ぶづがね。

………間………

とんとむがしあったけど。
ばんちゃんが一人で暮らしったっけど。
じんちゃんは、三年前、病気でぽっくり逝ったけど
ばんちゃんは、もどがら信心はしったけんども、亭主、なぐなってから、なおさら、深く、信心ば心がけだけど。
「どうが地蔵さま、おらいのじんちゃんは、あの世のごど、何にもしゃあねがらよっす、ほんてんよろしく頼むっす。ほのかわり、うんまい団子こしぇで、毎日、お供えさせでもらうがらよっす。」って言ったけど。

ゆめちゃんは、神さまどが、仏さまいるって知ってだが?
んぅ………?
信心っていうのはよ、自分の力だけではなじょしてもならねごどあっべ。んでも、毎日なんとが無事に暮らさせでもらっていっからよ、ほのごどばありがだいって思ってよ、んだがら、毎日よ、神さまどが仏さまさ、おしょうしな(有難うございます)って、ばんちゃんは手あわせるんだず。
んじゃ、おれも今度から、ばんちゃんといっしょに手ばあわせっかな。
んだが、んだら、ゆめちゃんも今度いっしょに手ばあわせっべな。

………間………

信心深いばんちゃんは、今日も仏さまさ団子おそなえすっべってこしゃえっだけど。ほのばんちゃん団子こしゃえんのんとじょんでよ、ほんてんまん丸ぐこしゃえだもんだがら、団子は仏さまさおそなえする前に、ひとりで庭のほうさころげでいったけど。団子はコロコロコロ、コロコロコロ、コロコロコロ、あらら、どごまでころがっていぐのやら………
ばんちゃんは、あわてで後をおっかげでいったられば、ちょうどお地蔵さまのまえさでだっけど。
お地蔵さまは、赤いよだれかけで口ばぬぐって、モグモグ、モグモグって何がくってだっけど。ほさ、ばんちゃんきたもんだがら、慌てでのどさつまってむせてしまたけど。
ばんちゃん、「あらら、お地蔵さま、なじぇしてござるっす、」って聞いだっけど。
ほしたら、お地蔵さま、「うまそうな団子、コロコロコロ、コロコロコロ、ころがってきたもんだがら、ごっつおなたけどごよ。」って言ったけど。
「いやぁ、うんまい団子だっけな。」って、お地蔵さま、ちゃっこいベロ(舌)ばだして、にこっと笑っけずもな。ほんてん、ちゃめっけあるお地蔵さまだなえ。
「まるで、ゆめちゃん見でだなえ………」
「おら、ほだなごどすねよ。」
「んだがや………」 ばんちゃんは、ゆめこちゃんばこちょばした(くすぐる)。
「ウフフッ。ばんちゃん止めで。こちょびたいず。」
んだが、ほんじゃ、話の続きはまた明日。
  


Posted by ほんねず at 11:21Comments(0)山形の民話(置賜方言版)

2007年11月19日

「見えない織物」 (置賜-準方言版)

「見えない織物」 (置賜-準方言版)

   設定:祖母/よし子  孫:剛志(小4)

ばんちゃん、ばんちゃん、とんと昔、とんと昔、語ってけろ。
おぼこだの声が寝床から聞こえできだ。
今夜もばんちゃんは孫にとんと昔を語り継ぐ。
こうして、何百年も人の心ありようが受け継がれていぐんだべな。

むがし、あったけど。あのよ、剛志、年貢ってわがっか?
しゃね!
んだが、昔、村は殿様のもので、毎年、田で米作っど、半分以上、お城さ納めらんなねくてよ、まんず、米ば作った百姓、んだご先祖様だぢはよ、自分だぢでは、米ば食んねがったんだず。
んじゃ、なに食ったけの。
んだね、なに食ったんだっけべね。
餅。餅食ったっけよ。
アハハッ。んだがや。餅食ったっけが。
ほんねっけの?
ほんねがもすんね。
………
いいが、話の続きして…
ん!
その、お城さ納める米のごとば「年貢」って言うんだけど。
年貢……がぁ
んだ。んでも、ある年の夏、冷たい風吹で、米が取れね年あったけど。
お城さ納める年貢もねくて、村の衆も困ってはよ、みな青い顔して頭かかえだっけど。
ほのどぎよ、お城から使い来て、米ねければ、金、三十両納めよっていう命令だっけど。
ありゃ、ほだなごど無理だべしたん。
んだね。無理な話だ。庄屋様のどごでも、ほだな貯えねぇっけど。
三十両が。もし三十両払わんねんごんたらどうなる?
んだね。ただではすまねべな。
ほんじゃ、なじょしても何とがさんなねのが。
ほんでもよ、ほさよ、ある男が名乗りば上げだっけど。まだ若いげんとも、面構えはふてぶてしく、すこしずるそうで、ニヤニヤ笑いを浮かべでいたっけど。
誰だぁ。その人。
悟介さんっていうてな、村一番の知恵ものだ。
悟介さんってが。
んだ。悟介さんは、村の衆ば前にして胸はって、「おれさ任せろ」 って言うたけど。ほして、つんぎの朝、一人でお城さ出がげでいったけど。
お城さついだ悟介さんは、門番さ年貢ば持って来たがら、殿様さ取り次ぐように頼んだけど。
では、というごどでお城の広い庭さ通さだっけど。
最初に出てきたのは、役人。
「その方、年貢を持ってきたと言うが、どこさある。どこさもないではないか。」
「いえいえ、ちゃんとここにござります」 って言うど、風呂敷包みば出したっけど。
「これが、年貢じゃと。」
「へぃ。これは、山のウグイスの声を縦糸に、野原のマツムシの声を横糸にして織り上げました、世にも珍しい綾織でござりやす。」
「どれどれ、ほだな織物どごさある。」
「へぃ、こごさ。」って、風呂敷ば見せだけど。
役人は目ば皿にして見だげんとも、織物なぞ何もねぇ。
「こらっ、何にもなねぇぞ。へだなずほ(嘘)こぐど、ただではすまぬ。そこになおれ。」 ってごしゃいだっけど。
ほんでも、悟介さんは平気の平左。
「お役人、この織物見えのがっす。んだらば、あんたの心と目はどうも曇っているようだなっす。」
「なにを、百姓の分際でわしを愚弄すとは…… そのままでは捨て置かぬ」 って、顔ば真っ赤にして頭から湯気あがったけど。
悟介さんは、ほんでも、涼しい顔してこう言ったけど。
「お役人様、その短気が邪魔して、世の中のごとも、この織物のことも何も見えねんであんめが。そもそも、この織物は、心清く正き者にしか見えぇものでよっす。」 って、言ったけど。
「なにおっ! そのような悪口雑言、許さぬ。首をはねてくれる。」 って、役人は刀ばぬいで、上段に構えだどぎだ、「まてまて」 って、止める人いだけど。
その人ぁ、殿様だっけど。
「騒ぎのわけを聞こう。」 って、殿様言ったけど。
役人がかくかくしかしかって、わけば話けど。
殿様は「うんうん」とうなずきながら聞いだけど。
話ば聞き終わった殿様は、「どれどれ」 って、悟介さんの前さしゃがみこんで風呂敷ば持って開いで見だけど。
ほうすっど、殿様ニコニコ笑って、「その方が、悟介と申すか。それにしても、見事な織物であるな。七色に光って、こするとウグイスとマツムシの声聞こえる。」 って、言ったけど。
「ほーっ、さすがはお殿様だねっす。この織物の美しさがお分かりいただけるとは」
「おう、分かるぞ、このような美しい織物は世も初めてじゃ」
「お殿様のお心は、まさに清く正しくござる」
悟介さんは下むいで、ベロば出してニンマリしたっけど。
殿様は、「左様か、わしの心は清く正しいかの?」
[この織物が、殿様の目にはちゃんと見えておられることが、何よりの証拠でござります。]
「これ悟介、この綾織を年貢の代わりに納めたいと申すのだな」
「へい、今年の夏は冷害だっけもんだがらねっす、村の衆も年貢のこどですっかり頭抱えでいでよ、ほんで、おらが村ば代表して、殿様さ、年貢の代わりに、世にも珍しい綾織ばもってきだどごよっす。なんたべね、殿様、この綾織で年貢の代わりにしてもらわんねべが。」 って、悟介さんは言ったけど。
「ほう、それで、この綾織の値はいかほどであるか?」
「んだね、この綾織ば織るのには、十年、山さ籠もったがらねっす。十年分の値となると三十両もらうべがね。」
「三十両か、安いの。ちょうど村に申し付けた年貢の値じゃな。それでは、手間賃として、さらにそちに十両をつかわそう。それでどうじゃ。」
「はっ、はぁ~。」 って、悟介さんは、お辞儀ば何回もしたっけど。
悟介さんは、年貢ば無事納めだほかに、十両ば懐にして、村さ帰ったけど。村の衆は大喜び! 祭りばひらいで、みんなでお祝いしたっけど。
お城では、殿様が天守閣から、祭りの様子ば眺めで、ニコニコ笑っていだっけど。
どんぴんさんすけ かっぱの屁
  


Posted by ほんねず at 11:58Comments(0)山形の民話(置賜方言版)

2007年11月02日

「福の神」 (置賜)

「ばんちゃん、ばんちゃん、とんと昔、とんと昔、語ってけろ。」
おぼこだの声が寝床から聞こえできだ。
今夜もばんちゃんは孫にとんと昔を語り継ぐ。
こうして、何百年も人の心ありようが受け継がれていぐんだべな。

むがし、あったけど。
ある村さ、親切で正直者の夫婦いだっけど。名ば正吉とおみよと言ったけど。
ある年越(としと)りのごどだずもな。その晩は吹雪(ふぎ)でよ、ぼだゆき(深雪)ではぁ、こぐ(歩く)のもたいへんだっけど。
そんげな晩方、めっぽうやつれた顔で、ぼろのなりした爺様が、常口(玄関)ばただいだっけずもな。
「一晩、宿かしておぐやい(ください)、ぼだゆき(深雪)でこがんねっぐってはぁ(歩けない)、しゃあます(往生)してっがらよ」 ってな。
そうすっど、その家ではなぁ、
「まんずなぁ、年越りの晩でせわしいさげ、ぶじょうほだげんとも、まだ来ておぐやい」
て、けちょけちょどこどわらだっけど。爺様はしぇずねぇがったども、ほんでも、また、隣の家さ行って頼んでみだっけど。
んでも、どごの家でもこどわらっで、ほんてんがおってはぁ(がっかり)、なじょしたらいがんべがど思って肩ばおどしてほだゆき(深雪)ばこいで(歩いて)いったっけど。
村はずれまで来っずど、ちっちゃい家の灯り見えだっけど。爺様はさいごの頼みど思って、思い切ってその家の常口 (玄関)ばただいだっけど。このちっちゃい家は、親切で正直者の正吉とみよの家だっけもな。
爺様は寒じぎで(寒くって)、精も魂も尽き果てで、常)口((玄関)ですぐだまったけど(身動きできなくなる)。
「こりゃ、大変だ! みよ手ばかせ。とにがぐ火のそんばさ。」
「あいよ」

「おっ!」 爺様は四半時(30分)もすっずど、気づいたけっど。
囲炉裏でばえだ(薪)、パチパチ音たてでぬぐぬぐ燃えっだけがら、爺様も助かったんだ。
「あらら、どうも、おしょうしなっす(ありがとうございます)」 爺様が気がついで言ったど。
「爺様、こんげな吹雪の晩、さぞ難儀なごどでありぁしたなっす。体の芯まで寒じだんであんめぇが。まんず、風呂でもなんたべね。さら湯(一番風呂)だがらよっす。」 って、おみよは風呂ばすすめだど。
「ほだな、もったいない、おらしぇーずはぁ」 って、爺様は遠慮しったけっど。
「ほだなごどやねでよ、遠慮すねで、ほれ、ほれ、どうぞ。」
「んだがや、なんだて悪いねっす。」 て、爺様はやっとご風呂さはいったど。

「どうもおしょうしな。まんず、風呂はよ、いいやんばいだけなっす。」 て、爺様はぁ、すっかりのぼせでいだっけど。
囲炉裏の縁さは、魚つけだ御膳あって、燗酒もだして、まんずすんばらしいもでなしだっけど。
「爺様まんず、たんとあがっておぐやい」 おみよが酒ついだけど。
「おとっおとっ、まんずおしょうしなっす(ありがとう)」 爺様は、酒呑んですっかり出来上がってきたっけど。爺様、正吉、おみよの三人で、ひとしきり歌って踊って、それはもう楽しがったど。息上がった爺様が囲炉裏の前さどっかど座っずっど、
「今度はぁ、一つおもしゃい話っこぶってみっか。」 っていうたけど。
正吉もおみよも身ば乗り出して聞き耳たてだっけど。

むかし、ある家さ貧乏神住んでいたっけど。
二親は流行病であっけなぐ死んだけずもな。倅は気抜けては、野良仕事もすねで、酒・博打・女郎買いとまぁ、半分ヤクザになりかけだけど。
村の衆が心配して無理やり、嫁っ子世話してむかさりぶったど。
倅は、嫁っ子があんまりめんこいんで、じぎに気ば入れなおして野良仕事さ精出して、たちまち傾いっだっけ家の屋台骨ぴんとたったけど。
その年の年越しの晩、天井裏でしくしく泣く声がしたけっど。
泣くのはだれだぁ? って聞いだけっど。
すっど、おらぁ貧乏神だ。
なして泣いでんのや? って聞いだれば、
この家すっかり金持ちになったがら、ずけ、福の神くっど。
んだど、おらぁ用無しだはぁ、この家出はらんなね。んだがら悲しぐって泣いっだけどごよ。
………間………
おい、貧乏神、にしゃ(お前)はよ、おらいの家出ていぐたいんだが?
ほだなごどない。
んだらさすかいないがら、このままいろは。
んだたて……
んだたてもへちまもね。福の神来たら、にしゃがぼだしてやれ。
んだ、ほれ魚食って、餅食って、干し柿くって力うけろ。
ここの家の倅ど嫁は、なじぇなもんだがそんぴんたかりで、貧乏神ばけしかけずだもな。
そごさやってきた福の神、貧乏神と相撲をとって負けでしまったど。
福の神は慌てて、その家がら逃げ出したっけど。あんまり慌てだもんで、大事な打ち出の小槌、忘っでいったけど。貧乏神はその打ち出の小槌ば拾って、自分が福の神になって、その家ば長者にしたっけずもな。
  どんぴんさんすけ かっぱの屁

貧乏神が福の神になったてが。そいづぁおもしゃい話でねが、なぁおみよ。
んだね、おら、ほだな話初めで聞いだ。おもしゃいね。んでも、ほんてん(本当の)の話だべが?
ずほ(嘘)でねぇよ。 爺様言ったけど。
んだがぁ、んでも貧乏神はいがったね。
んだ、いがったごど。
正吉とおみよは、顔ば見合ってた笑っけど。
んでもよ、爺様の顔は、んと寂しげに見だっけもな。
なしてだべね~?

なんと、おもしゃい話っ子だっけ。
ありゃ、爺様具合でも悪いが? 顔色青ぐして… おみよが聞いたけっど。
あらら、んだな、こりゃお開ぎにして、休んでもらうべは。 正吉も心配そうに言ったけど。
奥さ布団とったがらよ、まんずゆるりど休んでけらっしゃい。 おみよが爺様さ肩ばかして、奥さ休ませだっけど。
爺様はよっぽどくたびっで(疲れて)いだらしぐ、じぎ眠ったけっど。
………間………
つんぎの朝は、正月元旦。きんなの吹雪はずほ(嘘)みだいに日本晴れだっけど。
正吉おみよは、新年も豊年満作を祈って、白いまま炊いて、神棚お供えしたっけど。
してがら、爺様ば起こしたっけど。
「爺様、爺様、白いまま炊けだがら、おぎでおぐやい」 て、声ばかげだんげんとも返事ねぇっけど。
「あら、なじぇしたんだべ」 って、布団ばひっぺがえしみだれば、こりゃおったまげだ。
布団のなが、ピカピカ光って目も眩むほどだっけど。
爺様はなじぇしてしまったんだべね?
ピカピカ光ってんのば、よっくずど見っずど、そいづぁ、見だごどもねぇ大判小判が山になっていだんだけど。腰抜かしたのは正吉どおみよだったのだなね。
あの爺様は、いったい何者だったんだべね。その晩、正吉は庄屋様のどごさ行って一部始終報告したっけど。
庄屋様が言ううには、その爺様は、きっと福の神さまではながったんだべねぇがのって言うたっけど。
      どんぴんさんすけ かっぱの屁  


Posted by ほんねず at 16:21Comments(0)山形の民話(置賜方言版)