2007年11月19日

「見えない織物」 (置賜-準方言版)

「見えない織物」 (置賜-準方言版)

   設定:祖母/よし子  孫:剛志(小4)

ばんちゃん、ばんちゃん、とんと昔、とんと昔、語ってけろ。
おぼこだの声が寝床から聞こえできだ。
今夜もばんちゃんは孫にとんと昔を語り継ぐ。
こうして、何百年も人の心ありようが受け継がれていぐんだべな。

むがし、あったけど。あのよ、剛志、年貢ってわがっか?
しゃね!
んだが、昔、村は殿様のもので、毎年、田で米作っど、半分以上、お城さ納めらんなねくてよ、まんず、米ば作った百姓、んだご先祖様だぢはよ、自分だぢでは、米ば食んねがったんだず。
んじゃ、なに食ったけの。
んだね、なに食ったんだっけべね。
餅。餅食ったっけよ。
アハハッ。んだがや。餅食ったっけが。
ほんねっけの?
ほんねがもすんね。
………
いいが、話の続きして…
ん!
その、お城さ納める米のごとば「年貢」って言うんだけど。
年貢……がぁ
んだ。んでも、ある年の夏、冷たい風吹で、米が取れね年あったけど。
お城さ納める年貢もねくて、村の衆も困ってはよ、みな青い顔して頭かかえだっけど。
ほのどぎよ、お城から使い来て、米ねければ、金、三十両納めよっていう命令だっけど。
ありゃ、ほだなごど無理だべしたん。
んだね。無理な話だ。庄屋様のどごでも、ほだな貯えねぇっけど。
三十両が。もし三十両払わんねんごんたらどうなる?
んだね。ただではすまねべな。
ほんじゃ、なじょしても何とがさんなねのが。
ほんでもよ、ほさよ、ある男が名乗りば上げだっけど。まだ若いげんとも、面構えはふてぶてしく、すこしずるそうで、ニヤニヤ笑いを浮かべでいたっけど。
誰だぁ。その人。
悟介さんっていうてな、村一番の知恵ものだ。
悟介さんってが。
んだ。悟介さんは、村の衆ば前にして胸はって、「おれさ任せろ」 って言うたけど。ほして、つんぎの朝、一人でお城さ出がげでいったけど。
お城さついだ悟介さんは、門番さ年貢ば持って来たがら、殿様さ取り次ぐように頼んだけど。
では、というごどでお城の広い庭さ通さだっけど。
最初に出てきたのは、役人。
「その方、年貢を持ってきたと言うが、どこさある。どこさもないではないか。」
「いえいえ、ちゃんとここにござります」 って言うど、風呂敷包みば出したっけど。
「これが、年貢じゃと。」
「へぃ。これは、山のウグイスの声を縦糸に、野原のマツムシの声を横糸にして織り上げました、世にも珍しい綾織でござりやす。」
「どれどれ、ほだな織物どごさある。」
「へぃ、こごさ。」って、風呂敷ば見せだけど。
役人は目ば皿にして見だげんとも、織物なぞ何もねぇ。
「こらっ、何にもなねぇぞ。へだなずほ(嘘)こぐど、ただではすまぬ。そこになおれ。」 ってごしゃいだっけど。
ほんでも、悟介さんは平気の平左。
「お役人、この織物見えのがっす。んだらば、あんたの心と目はどうも曇っているようだなっす。」
「なにを、百姓の分際でわしを愚弄すとは…… そのままでは捨て置かぬ」 って、顔ば真っ赤にして頭から湯気あがったけど。
悟介さんは、ほんでも、涼しい顔してこう言ったけど。
「お役人様、その短気が邪魔して、世の中のごとも、この織物のことも何も見えねんであんめが。そもそも、この織物は、心清く正き者にしか見えぇものでよっす。」 って、言ったけど。
「なにおっ! そのような悪口雑言、許さぬ。首をはねてくれる。」 って、役人は刀ばぬいで、上段に構えだどぎだ、「まてまて」 って、止める人いだけど。
その人ぁ、殿様だっけど。
「騒ぎのわけを聞こう。」 って、殿様言ったけど。
役人がかくかくしかしかって、わけば話けど。
殿様は「うんうん」とうなずきながら聞いだけど。
話ば聞き終わった殿様は、「どれどれ」 って、悟介さんの前さしゃがみこんで風呂敷ば持って開いで見だけど。
ほうすっど、殿様ニコニコ笑って、「その方が、悟介と申すか。それにしても、見事な織物であるな。七色に光って、こするとウグイスとマツムシの声聞こえる。」 って、言ったけど。
「ほーっ、さすがはお殿様だねっす。この織物の美しさがお分かりいただけるとは」
「おう、分かるぞ、このような美しい織物は世も初めてじゃ」
「お殿様のお心は、まさに清く正しくござる」
悟介さんは下むいで、ベロば出してニンマリしたっけど。
殿様は、「左様か、わしの心は清く正しいかの?」
[この織物が、殿様の目にはちゃんと見えておられることが、何よりの証拠でござります。]
「これ悟介、この綾織を年貢の代わりに納めたいと申すのだな」
「へい、今年の夏は冷害だっけもんだがらねっす、村の衆も年貢のこどですっかり頭抱えでいでよ、ほんで、おらが村ば代表して、殿様さ、年貢の代わりに、世にも珍しい綾織ばもってきだどごよっす。なんたべね、殿様、この綾織で年貢の代わりにしてもらわんねべが。」 って、悟介さんは言ったけど。
「ほう、それで、この綾織の値はいかほどであるか?」
「んだね、この綾織ば織るのには、十年、山さ籠もったがらねっす。十年分の値となると三十両もらうべがね。」
「三十両か、安いの。ちょうど村に申し付けた年貢の値じゃな。それでは、手間賃として、さらにそちに十両をつかわそう。それでどうじゃ。」
「はっ、はぁ~。」 って、悟介さんは、お辞儀ば何回もしたっけど。
悟介さんは、年貢ば無事納めだほかに、十両ば懐にして、村さ帰ったけど。村の衆は大喜び! 祭りばひらいで、みんなでお祝いしたっけど。
お城では、殿様が天守閣から、祭りの様子ば眺めで、ニコニコ笑っていだっけど。
どんぴんさんすけ かっぱの屁


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