2007年11月24日
笠地蔵2 (庄内-標準語版)
第二回 (全二回)
なぜ、おじいさんは大事な売り物のすげ笠を、お地蔵さまに上げてしまったのでしょうか? それはわかりません。ただ、家で正月の祝いの品を楽しみにまっているはずの、おばあさんの気持ちは、けして忘れてはいなかったでしょう。だって、おじいさんは、道ばたのお地蔵さまよりも、いつも自分のそばにいて、苦労を分け合っているおばあさんに対する気持ちは、やはり大きいはずですもの。
………間………
「おばあさん、帰ったど…」
「あれ、まぁ、大変な吹雪のなかご苦労様でした。さぞ、なんぎであったでしょうの」 と、心配げにおばあさんは、おじいさんの背中にまわって雪をはたいてくれました。
「おじいさん、何がいい品、買って来てくれたがの」
「いや~っ、すまねぇのぉ。」
「………」
「実はの、道ばたのお地藏さまがの、寒そうでの、わ(私) めじょげねぐって(可哀想で)の、つい、売り物のすげ笠ばの、お地蔵さまさつけでやったけ。」
「なしてほだなぁ………」
「………」
「しぇば、あっちぇくせごどば(ばがくさいごとば)…… なんぼお地藏さま、めじょげねぐっても(可哀想でも)、晩げはお年越、明日は正月だぁ。おらいの神棚さも仏壇さも、何もお供えするものねぇってのに。きゃわりったら(困ったな)、なじょしたらいいがの。わ(私)は、しゃぁねぇがらの。」と、おばあさんは、怒って泣きながら、にあわない文句を言いました。
ふだん、おだやかで信心深いおばあさんでしたが、こう言うときは、手をつけられません。
おじいさんはしかたなく、黙ってすごすごと、そのまんま布団にはいって寝てしまいました。おばあさんも、ひとしきり怒り終えたら、そっぽをむいたまま寝てしまいました。
……間……
さて、夜中になりましたが、なんだが外でがさがさ音がします。
「昼間のじさまの家どごだ?」と、だれかの声がしました。
「ここだ。ここだ。」と言うと、戸口をあける音がしました。
「ドスン。ドスン。」今度は、何かを落とす音がしました。
つぎに戸口がしまって、さっさとどこかへ行ってしまいました。
おじいさんとおばあさんは、寝床で顔見合わせて、おじいさん行って見ろ、いや、おばあさん行って見ろ、と、おだがいこわがってしまって、先をゆずりあっていました。
いつまでも、ゆずりあっていてもしかたありません。おじいさんが心をきめて、寝床を出て、戸口に行って見ました。
そうしたら、なんと、なんと………
「こりゃ、たまげだ。米俵に、味噌、餅、塩引き。大判小判が山積みになってだぞ。」
おばあさんも、そうっと、おじいさんのあとついてきて、これも、また、たまげていました。
二人は、こしをぬかして、声も出ないぐらいでした。
しばらくして、おじいさんがやっと、「ありゃ、お地藏さまでねがの」と………。
おばあさんも、「んだの、きっと」と、そう言うと、二人で仲良く、餅をごちそうになりました。それがら、二人は長者になって、喧嘩もしなくなり、いつまでもしあわせにくらしました。 おわり
なぜ、おじいさんは大事な売り物のすげ笠を、お地蔵さまに上げてしまったのでしょうか? それはわかりません。ただ、家で正月の祝いの品を楽しみにまっているはずの、おばあさんの気持ちは、けして忘れてはいなかったでしょう。だって、おじいさんは、道ばたのお地蔵さまよりも、いつも自分のそばにいて、苦労を分け合っているおばあさんに対する気持ちは、やはり大きいはずですもの。
………間………
「おばあさん、帰ったど…」
「あれ、まぁ、大変な吹雪のなかご苦労様でした。さぞ、なんぎであったでしょうの」 と、心配げにおばあさんは、おじいさんの背中にまわって雪をはたいてくれました。
「おじいさん、何がいい品、買って来てくれたがの」
「いや~っ、すまねぇのぉ。」
「………」
「実はの、道ばたのお地藏さまがの、寒そうでの、わ(私) めじょげねぐって(可哀想で)の、つい、売り物のすげ笠ばの、お地蔵さまさつけでやったけ。」
「なしてほだなぁ………」
「………」
「しぇば、あっちぇくせごどば(ばがくさいごとば)…… なんぼお地藏さま、めじょげねぐっても(可哀想でも)、晩げはお年越、明日は正月だぁ。おらいの神棚さも仏壇さも、何もお供えするものねぇってのに。きゃわりったら(困ったな)、なじょしたらいいがの。わ(私)は、しゃぁねぇがらの。」と、おばあさんは、怒って泣きながら、にあわない文句を言いました。
ふだん、おだやかで信心深いおばあさんでしたが、こう言うときは、手をつけられません。
おじいさんはしかたなく、黙ってすごすごと、そのまんま布団にはいって寝てしまいました。おばあさんも、ひとしきり怒り終えたら、そっぽをむいたまま寝てしまいました。
……間……
さて、夜中になりましたが、なんだが外でがさがさ音がします。
「昼間のじさまの家どごだ?」と、だれかの声がしました。
「ここだ。ここだ。」と言うと、戸口をあける音がしました。
「ドスン。ドスン。」今度は、何かを落とす音がしました。
つぎに戸口がしまって、さっさとどこかへ行ってしまいました。
おじいさんとおばあさんは、寝床で顔見合わせて、おじいさん行って見ろ、いや、おばあさん行って見ろ、と、おだがいこわがってしまって、先をゆずりあっていました。
いつまでも、ゆずりあっていてもしかたありません。おじいさんが心をきめて、寝床を出て、戸口に行って見ました。
そうしたら、なんと、なんと………
「こりゃ、たまげだ。米俵に、味噌、餅、塩引き。大判小判が山積みになってだぞ。」
おばあさんも、そうっと、おじいさんのあとついてきて、これも、また、たまげていました。
二人は、こしをぬかして、声も出ないぐらいでした。
しばらくして、おじいさんがやっと、「ありゃ、お地藏さまでねがの」と………。
おばあさんも、「んだの、きっと」と、そう言うと、二人で仲良く、餅をごちそうになりました。それがら、二人は長者になって、喧嘩もしなくなり、いつまでもしあわせにくらしました。 おわり
2007年11月23日
笠地蔵 (庄内-標準語版)
笠地蔵 (庄内-標準語版)
第一回 (全二回)
おばあちゃん、おばあちゃん、とんと昔、お話して。
こどもたちの声が寝床から聞こえてくる。
今夜もおばあちゃんは、孫たちに、とんと昔を語りつぐ。
こうして、何百年も人の心のありようが受け継がれていくのだろう。
設定:祖母/はつえ 孫/ゆき(四歳)
今日はなんだか雲行きが怪しいと思ったら、やっぱり降り出しわね。ゆきちゃん、見てごらん、雪がふってきたわよ。
ほんとだ、うれしいな。
ふわり、ふわり、花びらのような大きなぼたん雪が、天からつぎつぎ舞い降りてくるのでした。
はつえさんとゆきちゃんは、二人並んで、庭を見ていました。
しらずにゆきちゃんは、はつえさんの手をにぎっていたのです。
そうだ、こんなお話があるの。と、はつえさんがしゃがみこんで、ゆきちゃんと同じ目の高さになって、庭を見ながら、お話をはじめました。
むかしね、ある村に、仲のいいおじいさんとおばあさんが、暮らしていました。
おばあさんが、こんなひとり言をいいました。
「今年も、いっしょうけんめい働いたの。ほんでも、さっぱりお金たまんね。貧乏暮らしはかわらねの。」
もうじき年越しです。おばあさんは、つい愚痴がでてしまったのでしょう。おじいさんは、だまったまま、おばあさんのひとり言を聞いていました。
そのまま数日がたち、今日は大晦日です。
「しぇば、心ばかりの正月の祝いの品そろえんなねの」と、おじいさんが言うと、朝早く、自分で作ったすげ笠を五つこしにつけて、もう一つ、自分がかぶってでかけていきました。このすげ笠を町で売って、お金にかえ、正月の祝いの品をそろえようというのです。
その日は大雪で、まだふりつづいています。どんどん積もっていくばかりです。風もふいて、おじいさんは地吹雪のなかを歩いていきました。
すると、吹雪のなか、お地藏さまが寒むそうにの立っていました。
そこに、おじいさんが通りかかりました。おじいさんは、ふと立ち止まって、そのお地蔵さまを、しげしげど見ました。おじいさんは、吹雪のなか、いかにも寒そうなお地藏さまが、可哀想に思えたのでしょうか。
こしにつけていた売り物のすげ笠を、一つはずしては、一人のお地藏さまにつけていきます。
おじいさんは、笠を五つこしにつけていたので、五人のお地藏さまに笠をつけていきました。あと一人、お地藏さまがおられました。おじいさんは、困ってどうしたらいいかと、少しの間、考え込んでいたのですが、そのとき、ハッと気がついたのです。おじいさんは、すぐに自分の笠を、わざわざぬいで、一人残ったお地藏さまにつけました。
すると、おじいさんはふところから手ぬぐいを出してほっかむりしてから、いったんこしをのばし、手を合わせながら、お地蔵さまに、ふかぶかおじぎをして、「しぇば、お地蔵さま、風邪などひがねようにの~、まだの~」 と言って、もと来た道を帰って行いきました。
つづく
第一回 (全二回)
おばあちゃん、おばあちゃん、とんと昔、お話して。
こどもたちの声が寝床から聞こえてくる。
今夜もおばあちゃんは、孫たちに、とんと昔を語りつぐ。
こうして、何百年も人の心のありようが受け継がれていくのだろう。
設定:祖母/はつえ 孫/ゆき(四歳)
今日はなんだか雲行きが怪しいと思ったら、やっぱり降り出しわね。ゆきちゃん、見てごらん、雪がふってきたわよ。
ほんとだ、うれしいな。
ふわり、ふわり、花びらのような大きなぼたん雪が、天からつぎつぎ舞い降りてくるのでした。
はつえさんとゆきちゃんは、二人並んで、庭を見ていました。
しらずにゆきちゃんは、はつえさんの手をにぎっていたのです。
そうだ、こんなお話があるの。と、はつえさんがしゃがみこんで、ゆきちゃんと同じ目の高さになって、庭を見ながら、お話をはじめました。
むかしね、ある村に、仲のいいおじいさんとおばあさんが、暮らしていました。
おばあさんが、こんなひとり言をいいました。
「今年も、いっしょうけんめい働いたの。ほんでも、さっぱりお金たまんね。貧乏暮らしはかわらねの。」
もうじき年越しです。おばあさんは、つい愚痴がでてしまったのでしょう。おじいさんは、だまったまま、おばあさんのひとり言を聞いていました。
そのまま数日がたち、今日は大晦日です。
「しぇば、心ばかりの正月の祝いの品そろえんなねの」と、おじいさんが言うと、朝早く、自分で作ったすげ笠を五つこしにつけて、もう一つ、自分がかぶってでかけていきました。このすげ笠を町で売って、お金にかえ、正月の祝いの品をそろえようというのです。
その日は大雪で、まだふりつづいています。どんどん積もっていくばかりです。風もふいて、おじいさんは地吹雪のなかを歩いていきました。
すると、吹雪のなか、お地藏さまが寒むそうにの立っていました。
そこに、おじいさんが通りかかりました。おじいさんは、ふと立ち止まって、そのお地蔵さまを、しげしげど見ました。おじいさんは、吹雪のなか、いかにも寒そうなお地藏さまが、可哀想に思えたのでしょうか。
こしにつけていた売り物のすげ笠を、一つはずしては、一人のお地藏さまにつけていきます。
おじいさんは、笠を五つこしにつけていたので、五人のお地藏さまに笠をつけていきました。あと一人、お地藏さまがおられました。おじいさんは、困ってどうしたらいいかと、少しの間、考え込んでいたのですが、そのとき、ハッと気がついたのです。おじいさんは、すぐに自分の笠を、わざわざぬいで、一人残ったお地藏さまにつけました。
すると、おじいさんはふところから手ぬぐいを出してほっかむりしてから、いったんこしをのばし、手を合わせながら、お地蔵さまに、ふかぶかおじぎをして、「しぇば、お地蔵さま、風邪などひがねようにの~、まだの~」 と言って、もと来た道を帰って行いきました。
つづく