2007年10月30日

「貧乏神の逆襲」 (山形県)予告編

ちぇっ、つまらねぇ。なんで俺は貧乏神なんかに生まれたんだ。親を恨むぜ。いや、世間だ。俺も神だと言うのに、世間の奴らの仕打ちはあんまりと言えばあんまりじゃねぇか! もうちょっと崇めてくれたって罰は当らねぇはずじゃねぇか。俺にだって、貧乏神の意地がある。今に見ていろ。それにしても腹が空いたな。あれ、雨だ。今朝から雲行きが怪しかったよな。
ピカッ! 雷もなりだしちまったよ。えっ、どうしよう。この辺に、俺が住めそうな家はないかな。まぁ、雨宿りが出来りゃありがたいって言うもんだが……。
 おお、あそこの家。茅葺の屋根にはぺんぺん草が生繁っていて、障子も破れ放題。蜘蛛の巣なんかもいいあんばいにはっている。
 どれどれ、中を覗いて見ようか。
 中には火のない囲炉裏があった。自在鍵に鍋がかかったまま。しめしめ、食い物だ。この家なら俺にもってこいではないか。やっと運が向いてきたかな。
 抜き足、差し足、忍び足。誰にも気取られてはなるまい。そっと、勝手の戸をあけて、土間から囲炉裏へ真っ直ぐ向かい、鍋のふたを開けてがっくり。鍋は空っぽ。縁にこびりついた粥が、ガワガワと乾いているだけ。
 ちょうどそこへ、酒に酔った若い男が帰ってきた。
 あっ、と思った貧乏神はすーっと天井裏に隠れた。
 若い男はそのまま奥の部屋に上がり、仏壇の前に座ると、鈴(リン)を一つ鳴らした。しばらく肩を落としてそのままじっと、何かをこらえるように拳をひざの上で握り締めている。目には泪がにじんでいるようだ。
「おっ父、おっ母、なんで死んだんだ! 俺一人でこれからどう生きていけばいいんだ。なぁ、おっ父、おっ母。頼むから、何とか言ってくれ。」
 だが、誰も何もこたえてはくれない。若い男はこらえきれずに、その場に突っ伏した。
どのぐらいの時間がたったのだろう。少し落ち着きをとりもどした若い男が、まだ酔いが抜けていないようで、足取りもおぼつかないまま、囲炉裏の脇に戻り座った。
 鉄瓶に直に口をつけると、水をぐびぐびと飲んだ。そして、そのままごろりと横になりいびきをかきはじめた。
「なんとまぁ、だらしねぇ。いい若い者が昼日中から、野良にも出ないで酒かっくらって高いびきとは。こういう家なら俺の住む家に相応しい。当分厄介になるか。」
さて、気になるのはあの仏壇だ、どれどれちょっと… 貧乏神は仏壇の前に座った。
真新しい位牌が二つ仲良く並んでいる。
この家の二親は、去年の流行病であっという間にあっけなく逝ってしまった。
仏壇にはお供えが山盛り… 柿に、栗に、煎餅に、饅頭に、あんころ餅、酒まである。これは近所の村の衆が、入れ代り立ち代り、お参りに来て供えて行ったものなのだ。
貧乏神は目をぱちくり、こりゃ旨そうだ。さっそくむしゃむしゃぱくついた。
ふーっ、食った。食った。腹一杯になったら、俺も少し眠くなった。どーれ、と言って、貧乏神は天井裏に上り、眠りについた。  続きを読む


2007年10月27日

「貧乏の神と福の神2」 (最上)

「ばんちゃん、ばんちゃん、とんと昔、とんと昔、語ってけろ。」
おぼこだの声が寝床から聞こえできだ。
今夜もばんちゃんは孫にとんと昔を語り継ぐ。
こうして、何百年も人の心ありようが受け継がれていぐんだべな。

ばんちゃん、ゆんべのつづき、つづき
んだが、つづぎが… んと、どごまで語っだけがな。
貧乏神が、貧乏神が、泣いだっけどこだじゅ。
んだ、んだ、貧乏神はぁなして泣いでいだんだけがな。
しゃねぇじゅ。なして、なして。ばんちゃん、はやぐ、はやぐ、つづきば

若勢が言ったけど。
「んにゃ、誰だんべ?
「おら、この家の貧乏神」
「なんと、こりゃたまげだ。んにゃ、貧乏神だでが」
嫁っ子が言ったけど。
「あら、おらいの家の守り神様、貧乏神だったんだがじゅ」
「うわ~っ…」
って、貧乏神は、大きな声で、まだ泣き出したけど。
「あらら、なしてほだい泣くのや」
若勢聞いだけど。
「なしてって、んにゃだ夫婦が、あんまり稼いですっかり貧乏でなぐなったさげ、今日、この家さ福の神が来るごどになってる。ほしたら、おら、この家ばぼだされるんだ。この家ぼださっでも、おら行くあてねぇもなぁ。ほだがら、悲しくって、泣いっだどごよ」
「あらら、ほだなごどだっけのが」
「貧乏神様、なんにもおらいの家おん出ていぐごなないよ、今までどおり、この家の守り神様でいでけらっしゃい」
って、嫁っ子も目さ泪ためながら言ったけど。
「んだて、ずげ、福の神くっじぇあ」
「ほだな、福の神なんぞ追っ払ってな、んだ、追っ払え、追っ払え」
若勢は、なんだがごっしゃぱらげで言ったけど。
「んだ、貧乏神様、塩引き焼けだがらよ、一杯食って元気出して。餅もごっつおすっから、力つけで、福の神なんぞ追っ払ってけらっしゃい」
って、嫁っ子も泣きながら笑って言ったけど。
貧乏神は、こだなすんばらしいごっつお食ったごどながったさげな、むしゃむしゃ夢中で食ったっけど。
「うわー、腹いっぱいごっつおなった。この家の若旦那、嫁子殿、ほんてんおおぎぃ(ありがとう)だっけもな」
「いがったなぇ。んだらば福の神追っ払う力ついだべ」
若勢もうれしぐなって言ったけど。
「んだ。んだ。追っ払え、追っ払え」
って、嫁っ子も言ったけど。
貧乏神もすっかり自信ついで、にこにこ笑っていっだけど。

とんとん、とんとん。戸ただぐ音したっけど。
「福の神来たぞ。福の神来たぞ。」
っておっきな声したっけど。
「おお、福の神が。待ってだぞ」
って、貧乏神、表さ出はったけど。
貧乏神ば見だ、福の神はおったまげで
「なんだて、なして、貧乏神いるんだ。んにゃは用済み。じゃまじゃま。ちゃっちゃど去れ。去れじゅ」って言ったけど。
福の神のしゃべっこど聞いっだけ貧乏神は、ごしゃげで
「なにほざぐ、今日はんにゃに負けねぞ」
って言ったけど。
「ほざいでんのはんにゃだべ。ちゃっちゃど去れず」
って福の神はやんだぐなったみでぇに言ったけど。
「貧乏神様、ごじゃごじゃ言ってねで、福の神ばはやっつけろ!」
って、後ろで眺めっだけ夫婦が言ったけど。
そいずば聞いだ貧乏神は勇気百倍。よーしって言って、福の神さ思いっきり体当たりしたっけど。
ほんでも、福の神はびくとしねっけど。
んだて、福の神は毎日ごっつお食って、太っていださげの、立った一回しかごっつお食ったごどない貧乏神ではかなわねもな。ほんでも、今日の貧乏神は別人だ、一回や二回ふっとばさっだて、諦めねで、福の神の腰さくらいついで言ったけど。
「のこった。のこった。」
夫婦は一生懸命貧乏神ば応援したけど。
「あっ、あぶない。」
「ほれ。ほれ。おらだぢついでる。」
「頑張れ!頑張れ!」
福の神は、いづもどすっかり勝手が違って、腹さ力入らなぐて、往生したんだど。
その隙ば見て取った貧乏神は、
「えーいっ!」
とばかりに、力いっぱい福の神ば投げ飛ばしたっけもな。
「痛でっ。痛でっ。こりゃなんとしたこんだ。おら福の神。あっちが貧乏神だっちゅうのに。こだなどごさおらいらんねっちゃ。」
って言うずど、福の神はぁしゃぁますしては、すたこらっささど、逃げで行ったけど。
福の神はぁ、あんまり慌てで逃げで行ったさげ、打ち出の小槌ば忘っで行ったんだど。
ほいずば、貧乏神が拾って、
「ほうれ、米でろ、味噌でろ、金もでろ」
て、打ち出の小槌ばふったれば、あどががら、あどがら、ざっくざっくどお宝ではったけど。
「あら、まんず、いづのまに、こだい立派なお姿に」
って、よめっこがたまげで言うずど、今度は若勢も、
「まるで、福の神さまだぁ」
ってたまげっだけど。
貧乏神は、ほだなごどはじめでいわっださげ、ちょべっとさだげね(恥ずかしく)なったげんとも、もう、しっかり福の神さなっていだっけど。
んだはげ、この家の守り神様は、貧乏神から福の神になって、ずうっとこの家さ住んでいだんだど。
この家は、ますます栄で、村一番の長者になって、夫婦仲良く、福の神と幸せに暮らしたんだど。
        どんぺ、すかんこ、ねぇっけど。  (おしまい)  


Posted by ほんねず at 14:46Comments(0)山形の民話(最上方言版)

2007年10月27日

「貧乏の神と福の神1」 (最上)

「ばんちゃん、ばんちゃん、とんと昔、とんと昔、語ってけろ。」
おぼこだの声が寝床から聞こえできだ。
今夜もばんちゃんは孫にとんと昔を語り継ぐ。
こうして、何百年も人の心ありようが受け継がれていぐんだべな。

むがし、あったけど。
あるどごろさ、父ちゃんにも、母ちゃんにも、死に別っで、一人さみしく暮らしている若勢いだっけど。
若勢は、生きる甲斐ばなぐしては、気ぬげで、毎日、ぐだらぐだらど暮らしったけど。
そごさよ、そんげな家大好ぎで、さがし歩いっだっけ者いだど。
誰だど思う?

おぼこらが声をそろえで…
「貧乏神」
ばんちゃんが…
「んだ、貧乏神だじゅ!」
「おらぁ貧乏神だぁ、やっといいどご見つげだ。世話なんべ。こりゃあんばいいなぁ、まんず、まんず。」
って、言ってニコニコ笑っていだっけど。
ほうすっどよ、その家の若勢は、なお気抜げではぁ、ますますぐだらぐだら暮らすようなたっけど。
そげな若勢ば見っだけ村衆は、見るに見かねで、若勢さぁ嫁っ子世話して、なんとが立ち直らせんなんねなぁと、相談ぶったけど。

 めでためでたの若松様よ~
今日はめでたいむがさり(結婚式)だぁ。
若勢はめっぽうめんこい嫁っ子さ、一目惚れ。
若勢と嫁っ子は、すぐ仲いいぐなって、若勢は嫁っ子のために、一所懸命、稼ぎだしたっけど。
んでも、なんぼ稼いでも、暮らしはさっぱりいいぐならねっけど。
そういずば見っだけ貧乏神が言ったけもな。
「ほいずぁ仕方ねぇな。おらがこの家さぁいる限り、貧乏だぁ。悪いげんども仕方ねもなぁ。」
んでも、この嫁っ子は、貧乏なんてさっぱり苦にすねで、朝から晩まで、若勢と一緒に稼いで、家の掃除ばしたり、障子ばはりがえだり、煤払いしたり、まんずやっちゃがねがっだ家、見違えできれいになったけど。
そんだけでねぇぞ。優しい嫁っ子は、飯たけば飯を、団子つくっど団子ば、貧乏神さお供えして、
「どうが家の守り神様、遠慮なぐすこだま上がってけない」
って、めんごい手ば合わせで、みすぼらしい神棚、拝んでいだっけど。
貧乏神は、なんだがけっつのあだり、むずむずしてきて、だんだん居心地悪ぐなってきたっけど。
んだたで、貧乏神はどさ行ったっで、邪魔者あつかい、さっだごはあっても大事にさっだごどなんぞながったもな。んだがら面食らってはぁ、困っていっだけど。
んでも、大事されっがら、出ていぐに出て行けず、三年あっという間にすぎだど。
今日は年取り。
晩げに、若勢が家さ帰ってきったけど。
嫁っ子さ、大きな塩引き(塩鮭)ば、土産だぁって言って渡したど。
「あらぁ、立派な塩引きだな。餅も搗けだし、こりゃ今年はいい年取りだぁじゅ。あんた、おら、うれしいじゅ。ほんてんおおぎぃ(ありがとう)」
って言うたけど。
夫婦が仲いぐしているどご、ながめっだけ貧乏神、めそめそ、えんえん、うわーんうわーんて、だんだん大きな声だして泣き出したっけど。
んだずど、その泣き声ば、聞きつけだ若夫婦、不思議に思って、顔を見わせ、
「誰だんべ。誰が泣いでる。」
って言うずど、夫婦はちっちゃい家の中、見回して見だっけど。
二人そろって神棚ほうば見だれば、ほごさぼろの着物でいがにも貧乏臭い神様がいっだけど。
夫婦は、びっくりして、
「んにゃ(お前様)誰だぁ?」
って聞いだけっど。
「おらぁ、貧乏神だぁ。」
「貧乏神?」
夫婦は聞きなおしていだっけど。
「んだ…」
「ほんてだべが、あんだ」
って嫁っ子が若勢さ言ったけど。
「ん~んっ。」
って若勢が息ふかぐ吸うずど、考え込んで、やっと貧乏神さ聞いだけど。
「んにゃ、貧乏神だで、なして泣いでんのや?」
「なしてって…」
貧乏神はぁ言ったけど。
なして、貧乏神泣いでいだんだべね。
つづぎはまだ明日な。
おぼごは寝らんなねは。
  どんぺ、すかんこ、ねぇっけど。
                        「貧乏の神と福の神2」につづく  


Posted by ほんねず at 03:48Comments(0)山形の民話(最上方言版)

2007年10月25日

「囲炉裏のぬくもり」

おぼこの頃、夜、寝る前にばんちゃにせがんで聞いた、桃太郎やかぐや姫、浦島太郎に因幡の白兎。カッパ淵や座敷ワラシ、おしら様、人を喰らった犬神様の身の毛のよだつ怖い話、猟師とクマとの知恵比べ。姥捨山や水子地蔵、近所のだれそれがタヌキにばかされ、裏の嫁っ子がキツネに憑かれて行き方知れずになった話。いっぱいの『とんとむかし』思い出しったけのよ。
ああ、おもしゃがったなえ。
囲炉裏の薪がパチパチ音たて、橙色の炎をゆらめかせ、煤の匂いが家中に充満していたっけもな。あそごには、懐かしさと人が生きている温もりに溢れていだっけな。
自然と共に、自然にならい、自然に感謝するつつましい生活があったっけな。自然と人間は一体のものだったもの。自分を大事にするのと同じように、自然をいとおしみながら、長い年月、その土地に暮らしてきたんだ。
人間が人間であるごと、嗚呼、今はこの当たり前のことが見失われがちだもねぇ。んだがら、素直に、素朴に、素敵に伝えられ、来た、民話の数々。それらを。単なる知識ではなく、生きた知恵のありかとして、まんずあんまり飾らずに紹介していぐさげ、よろしぐ頼むず。  


Posted by ほんねず at 14:05Comments(2)民話のこころ