2007年11月19日

「やきもち鏡」 (置賜-準標準語版)

「やきもち鏡」 (置賜-準標準語版)

おばちゃん、おばぁちゃん、とんと昔、お話しして。
子供の声が寝室から聞こえてきた。
今夜もおばちゃんは孫にとんと昔を語り継ぐ。
こうして、何百年も人の心のありようが受け継がれていくんだろう。

設定:祖母/よし子  孫:剛志(小4)

剛志、「とんち」って知っている。
ん、「この橋わたるべからず。」でしょう
 一休さんだね。
この前、おばぁちゃんがお話ししてくれたじゃない。
そうだっけ!
なんだ、忘れちゃったの?
おぼえているよ!
ほんとかな?
うるさいよ。男の子はこまかいことは気にしない。

………間………


 むかし、こんなお話がありました。
 ある村に「とんち」好きのお殿様がいました。お殿様は、毎年、「とんち祭り」ひらいていて、今年もみょうな問題を出しました。その問題と言うのはよ、「灰で縄をなってみろ」というもだったの。
 ところが、このお殿様に、さらに輪をかけたような「とんち好き」の百姓がいました。名前は頓吉《とんきち》と言います。
 頓吉は、いく晩も考えつづけて、「とんち祭り」の日に、お殿様のまえに進みでて、鉄鍋を献上しました。その鍋のなかには、見事な灰でできた縄がはいっていました。
 お殿様はその灰でできた縄を見てビックリしてしまって、腰を抜かしたほどでした。
お殿様は、頓吉にどんな方法でこの縄を作ったのか聞きました。
 頓吉は胸をはってさも自慢げに話をしたの。
「ほいずぁ、じょさね(簡単)なごどだ。ふつうに縄ばなってから、鍋にぶっ込んで火ばつけで灰にしただけだず」
「ほう、そうであったか。頓吉、いつもながら見事なとんちである。ほめてとらす。褒美をつかわそう。望みのものを申せ。」
「へぃ。」と、頓吉はしばらく考え込んでから、お殿様にこう申し上げたのよ。
「あの、殿様、おら、物はいらね。ただ、去年亡くなった親爺にも一度会って、親孝行の真似ごとがしたいと思いやす。」
 お殿様はその望みを聞いてしばらく考え込んでから、頓吉に言いました。
「頓吉、お前の孝行心には、頭が下がるの。まさしくわが領民の鏡である。お前の望みをかなえてやろう。」と、ご機嫌でした。
「へぃ、さすがは殿様。ありがたいことで。」頓吉はお殿様にお辞儀をしていたの。
「これをつかわす。」と、お殿様が、漆塗りの立派な箱を下さった。そしてこう言い足した。
「そうじゃの、これから三年の後、この箱を開けてはならぬ。そして、三年たったら中を覗いてみよ。さすれば、そこにお前の父親が必ずいる。必ずにな。ただしその箱を開けるときは、部屋には誰も入れずに、お前一人で開けることに限るぞ。さもなければ、父親はたちまち消えてしまうからな。」と、念押しをして、渡してよこしたんだって。

………間………

 頓吉はお殿様にいただいた漆塗りの箱を、大事に家に持ち帰って、仏壇に供えて三年待ったの。三年目のその日、頓吉は、家のものに仏間に近づいてはならいと申しつけて、夜になると一人仏間に入って、あの漆塗りの箱のふたをそっと開けて見たのよ。
 そしたら、ビックリ、本当に頓吉の父親の顔が、その箱の中にいたんだって。頓吉は思わず、嬉しくて笑いがこぼれたわ。そうしたら、箱の中の父親も、同じように笑っているんだって。そのうち、父親が亡くなった悲しみがこみ上げできて、頓吉は思わず泪が流れてきたの。そうすると、また、箱の中の父親も、同じように泪を流していたのね。頓吉は不思議でならなくて、さすがは、お殿様のご褒美のことだけはあると思って、知らずに、箱の中に父親に手を合わせて蓋を閉め、また仏壇にお供えしていたんだって。
 そして、そんなことが七晩続いたのね。
 七晩も頓吉が夜になると仏間にこもるのは何故か? 頓吉の女房が怪しみ出すのも当然だわ。女房は、これは怪しいと言うので、頓吉が留守の昼間に、仏間に入り、あの漆塗りの箱のふたを開けてみたの。そうしたら、箱の中には、見た事もない美人の女の人がいたんだって。女房は、頓吉が自分に内緒で、毎晩、この女と浮気していたのだと思い込んで、頓吉が帰ってきたところで、やきもちの火花を頓吉にぶつけんだって。
 頓吉は身に覚えのない女房のやきもちに当惑して、言い訳がましく、亡くなった父親に親孝行しているだけだと、話をしたの。
 それでも、そんなことは女房には信じられない。見え透いた嘘だろうと、さらに怒りをあらわにして、頓吉を引っ掻いたりぶったりして、なかなか治まる気配がない。
 そこでしかたなく頓吉は、女房と一緒に仏間に入り、漆塗りの箱の蓋を開けて見せたのね。すると、そこには夫婦の顔が映っていたのだけれど、女房は興奮していたためか、女の人の顔が自分の顔であることに気づかずに、頓吉を押し倒してぶち続けたんだって。
頓吉はたまらず、「ほれよーく見てみろ。ここには俺の父親が映っているだけだ。」と言って、女房に、箱を向けたのだが、そこには女房の顔が映っていたのね。
 頓吉は、はっとして、ようやくお殿様のとんちに気がついで、「まてまて」と、女房を何とかなだめて、お殿様のとんちのわけを話してきかせたんだって。
「ほら見で見ろ。ここに映っている美人は、お前の顔ではないか」と、頓吉が女房に言うと、女房は顔を真っ赤にして、恥ずかしながら、頓吉に抱きついて、その晩は、夫婦仲良く、同じ布団に入って寝たんだって。
 それから、その漆の箱は、頓吉の家の大事な家宝として、代々、大事に受け継がれていったんだって。
   とんぴん、さんすけねぇっけど。


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