2007年11月13日

「阿古耶姫 3 」 (村山)

ばんちゃん、昨日のつづぎ………
んだね。昨日なのつづぎだよ
阿古耶(あこや)姫は、それからは何をしていても気もそぞろ。夜になるのが待ち遠しくて仕方がない。姫の願いがかなって、ようやく日も暮れ夜も更けたころ、どこからともなく、澄んだ笛の音が風を渡って聞こえてきたけど。
笛に合わせて、姫も琴を爪弾き始める。その合奏の見事さは例えようもないほど妙なる響きであったけど。
二人は、こうして夜毎、琴と笛を奏で合いつづけた。ほれごそ、来る日も来る日も、二人はやがて、身も心も惹かれあい、ついには深く情を交わす仲となっていたけど。

……間……

楽しく幸せな時は瞬く間に過ぎでいぐ。ちょうど一年が過ぎたころだ。
大嵐、今で言う台風だなね、んだ、ものすごい台風よ。ほして、名取川が大洪水になって、街道さ掛かる名取大橋も流さっでは、村の衆も旅の人も大困り。まして、台風の被害はそれだけではなくて、家と一緒に子供も流されちまったもの、土砂崩れで生き埋めになったもの、倒木に挟まれて絶命したもの。数えでも数えでもきりがねぇ。ほのぐらい大変な被害だっけど。
ほしたら、その日を境に、左衛門太郎もぱたと来ねぐなたっけど。
姫様は心配で、心配で、いでもたってもいらんね。日に日にやつれて行いたけど。姫の様子ばみっだけ家人は、父親の豊充卿にも報告したけど。豊充卿は姫が心配で、家人たちさ命じて、八方手ば尽くし、左衛門太郎ば探させだげど。ほんでも、ようとして行方が知れねけど。

……間……

ちょうどそのころ、名取大橋の架け替えの話が持ち上がって、材木の調達ば急いでいだんだけど。多勢の人が刈り出さっで、信夫の国中探しても、いいあんばいに大きな木見つからねぐて、困って、熊野神社の巫女ば頼み、占いばたてだっけど。
巫女が言うには、「橋の材木は、もはやこの信夫の国にはない。あっどすっど、あの峠ば越で、隣の最上の国の千歳山の頂に生えでいる松の木しかない。」って言ったけど。
したれば、さっそく国中の樵が集められ、最上の国に出かけで行って、千歳山の頂の松の大木を切り出して、運ぼうとしたんだど。
ほんでも、松の木はぴくとも動がね。なじぇなごどしても一切動かねけっど。
動がねごんたらしかたね………はい、話はまだ明日。


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