2008年01月18日
2008年01月18日
「はんつけ半次郎」第一回(あるあわて者の話)村山方言版
第一回
毎日、雪ふって、冬は村の衆も、すっこどなくて、毎晩、だれがの家さよって、酒呑んだり、茶飲んだりして、ときに唄い、ときに踊り、また下品な猥談や、世間話、とんと昔など語り合い、憂さを晴らして、少ない楽しみとしていた。
♪千歳山からナァー
紅花(こうか)の種蒔いたヨー(トシャンシャン)
それで山形 花だらけ(サァーサァツマシャレ ツマシャレ)
♪花を摘むのもナァー
そもじとならばヨー
棘(いらか)刺すのも 何のその
♪花の六月ナァー
それ来た咲いたヨー
摘んだ花から 恋が出る
権兵衛のおかぢゃ、いや~ぁ、いづきいでもよ、いい声だな。
まずほれ、一杯と、唄い終えたおかぢゃさ、隣の松屋のおかぢゃが酒をつぐ。
あら、すまねごど。
どうだい、今度は、田吾作ぢんちゃ、とんと昔、ひとづたのむず。
んだが、ひとづやっか。
田吾作ぢんちゃは、湯飲みの酒をあおると、手でくちばぬぐい、エヘンと咳払いひとづしてから語りはじめだ。
とんと昔、あったけど。
隣の村の話だず、なぁ、ほれ。
一人のバガ息子いだっけど。ほの息子、名は「半次郎」、あだ名は「はんつけ半次郎」って、言ったけど。
「はんつけ半次郎」は、あわて者でひょうばんだっけがら、よ、こだな話になったけのよ。
「はんつけ半次郎」が、ある日、明日、山寺さお参りいぐがらって、おがぁちゃさ言って、あだらしぃ手ぬぐいど、花染めのフンドス用意してもらったけど。
花染めフンドスっていうのはな、紅花で染だ越中フンドスのごどだべつねぇ。んだげど、おらいままでよ、紅花で染めだフンドスなんてみだごどもねぇげんとも、よ。
いやぁ、ほいずは赤フンのこどだべつ。
桶屋のおやじが酒焼けした赤い顔してあいのてへっだけ。
んだ、んだ、カンタンに言うど、赤フンだべつね。桶屋のおがちゃ。桶屋のおやじはおがちゃの赤い腰巻のおさがりば、フンドスにしてんであんめぃし、なっ、おやじ。
桶屋のおがちゃが、赤い顔して、おらぁ、ほだなごどしゃねっちゃ、って言ったけ。
ほだが、しゃねっちゅうんじゃしょないな。
ほしたら、「はんつけ半次郎」のおがちゃ、なして急に山寺お参りいぐ気になたがってきいだけど。
おら、村の衆から「はんつけ半次郎」なんてバカにされんの悔しくて、おれのはんつけ直るよう、山寺さ願掛けしてみっべどおもってよ。
「半次郎」お前、お前……… って、おがちゃ、ほいずばきいで涙ば浮かべでよろこんだ。
んだが、「半次郎」おら、こだいうれしごどねぇ。
よーし、手ぬぐいど花染めのフンドスでいいなだな、ちゃんと用意しておぐがら。あど、お賽銭と、小遣いもな。賽銭は十文。小遣いは九十文。別々の財布さへっでおぐぞ。ちゃんと間違わねようにな。
わがっだ、おかちゃ。おら間違わねず。
ほして夜になって、「はんつけ半次郎」は、あしたのごど考えはじめでよ、はやぐ、明日にならねべがど思って、こりゃ眠ってなんていらんねって、一晩、まんじりともすねで起きだっけど。
ほうすっど、トトコがおっきな声で、「コケコッコウ」って、鳴いだもんだがら、さっさど顔洗ってではっていたっけど。
首から手ぬぐいかげで、おおげさにしりぱしょりして、やぐだい(わざと)フンドス見えるようにして、肩で風きってさっそうと山寺街道ば、あるいでいったけど。
すれ違う人、すれ違う人、みなふりむいで、「はんつけ半次郎」ば見だけど。
桶屋のおかちゃ、なしてだどおもう?
あら、なしてだべ、おらわがらね。
んだが、わがらねが。ほいずぁよ、「はんつけ半次郎」のフンドスが、花染めのフンドスでねくて、こんきたなねぇ、しょんべんまみれ、くそまみれのボロフンドスなんだけど。
つまりぁよ、あさ家ではっどき、おがぁちゃせっかぐ用意してけっだけフンドスさきがえねで、きんなのまんまではてきたっけのだなね。ほんでもじぶんは、花染めのフンドスはいでめかしこんだかんじょうで、すそっぱしょりして見せびらがしてあるいでいだんだど。
ほんてん、こまった「はんつけ半次郎」だづほれ………
つづく
毎日、雪ふって、冬は村の衆も、すっこどなくて、毎晩、だれがの家さよって、酒呑んだり、茶飲んだりして、ときに唄い、ときに踊り、また下品な猥談や、世間話、とんと昔など語り合い、憂さを晴らして、少ない楽しみとしていた。
♪千歳山からナァー
紅花(こうか)の種蒔いたヨー(トシャンシャン)
それで山形 花だらけ(サァーサァツマシャレ ツマシャレ)
♪花を摘むのもナァー
そもじとならばヨー
棘(いらか)刺すのも 何のその
♪花の六月ナァー
それ来た咲いたヨー
摘んだ花から 恋が出る
権兵衛のおかぢゃ、いや~ぁ、いづきいでもよ、いい声だな。
まずほれ、一杯と、唄い終えたおかぢゃさ、隣の松屋のおかぢゃが酒をつぐ。
あら、すまねごど。
どうだい、今度は、田吾作ぢんちゃ、とんと昔、ひとづたのむず。
んだが、ひとづやっか。
田吾作ぢんちゃは、湯飲みの酒をあおると、手でくちばぬぐい、エヘンと咳払いひとづしてから語りはじめだ。
とんと昔、あったけど。
隣の村の話だず、なぁ、ほれ。
一人のバガ息子いだっけど。ほの息子、名は「半次郎」、あだ名は「はんつけ半次郎」って、言ったけど。
「はんつけ半次郎」は、あわて者でひょうばんだっけがら、よ、こだな話になったけのよ。
「はんつけ半次郎」が、ある日、明日、山寺さお参りいぐがらって、おがぁちゃさ言って、あだらしぃ手ぬぐいど、花染めのフンドス用意してもらったけど。
花染めフンドスっていうのはな、紅花で染だ越中フンドスのごどだべつねぇ。んだげど、おらいままでよ、紅花で染めだフンドスなんてみだごどもねぇげんとも、よ。
いやぁ、ほいずは赤フンのこどだべつ。
桶屋のおやじが酒焼けした赤い顔してあいのてへっだけ。
んだ、んだ、カンタンに言うど、赤フンだべつね。桶屋のおがちゃ。桶屋のおやじはおがちゃの赤い腰巻のおさがりば、フンドスにしてんであんめぃし、なっ、おやじ。
桶屋のおがちゃが、赤い顔して、おらぁ、ほだなごどしゃねっちゃ、って言ったけ。
ほだが、しゃねっちゅうんじゃしょないな。
ほしたら、「はんつけ半次郎」のおがちゃ、なして急に山寺お参りいぐ気になたがってきいだけど。
おら、村の衆から「はんつけ半次郎」なんてバカにされんの悔しくて、おれのはんつけ直るよう、山寺さ願掛けしてみっべどおもってよ。
「半次郎」お前、お前……… って、おがちゃ、ほいずばきいで涙ば浮かべでよろこんだ。
んだが、「半次郎」おら、こだいうれしごどねぇ。
よーし、手ぬぐいど花染めのフンドスでいいなだな、ちゃんと用意しておぐがら。あど、お賽銭と、小遣いもな。賽銭は十文。小遣いは九十文。別々の財布さへっでおぐぞ。ちゃんと間違わねようにな。
わがっだ、おかちゃ。おら間違わねず。
ほして夜になって、「はんつけ半次郎」は、あしたのごど考えはじめでよ、はやぐ、明日にならねべがど思って、こりゃ眠ってなんていらんねって、一晩、まんじりともすねで起きだっけど。
ほうすっど、トトコがおっきな声で、「コケコッコウ」って、鳴いだもんだがら、さっさど顔洗ってではっていたっけど。
首から手ぬぐいかげで、おおげさにしりぱしょりして、やぐだい(わざと)フンドス見えるようにして、肩で風きってさっそうと山寺街道ば、あるいでいったけど。
すれ違う人、すれ違う人、みなふりむいで、「はんつけ半次郎」ば見だけど。
桶屋のおかちゃ、なしてだどおもう?
あら、なしてだべ、おらわがらね。
んだが、わがらねが。ほいずぁよ、「はんつけ半次郎」のフンドスが、花染めのフンドスでねくて、こんきたなねぇ、しょんべんまみれ、くそまみれのボロフンドスなんだけど。
つまりぁよ、あさ家ではっどき、おがぁちゃせっかぐ用意してけっだけフンドスさきがえねで、きんなのまんまではてきたっけのだなね。ほんでもじぶんは、花染めのフンドスはいでめかしこんだかんじょうで、すそっぱしょりして見せびらがしてあるいでいだんだど。
ほんてん、こまった「はんつけ半次郎」だづほれ………
つづく