2007年11月16日

「阿古耶姫 1 」 (村山・標準語版)

第一回(連載一・全四回)
おばあちゃん、おばあちゃん、とんと昔、お話ししてちょうだい。子供たちの声が寝室から聞こえてきた。今夜もおばちゃんは孫たちに、とんと昔を語り継いでいくのでしょう。
こうして、人の心のありようが、何百年も受け継がれていくのかな。

 笹谷峠って知っている?
 知っているよ。この間、おばちゃんと一緒に行った「ぼけなし観音」のところの峠道でしょう。
 そう、よく覚えていたね。今日は、笹谷の峠を越えた、信夫郡の名取って言うところにいた、さるお姫様と、あの千歳山の松の精との、悲しい恋の物語を語ってあげようかなっておもうの。どう?
 ん、それ面白そう!
 ところで、さくら、お前は年はいくつになったの?
 ウフッ! 十二歳よ。
 この間、ママが赤飯を炊いてくれたんだっけ。
 ええ。
 それじゃ、少し大人の話しだけど、女の子として、きっと何か感じてくれたら、おばあちゃんも、話甲斐があるわ。
 ウワ~ッ! ちょっとドキドキしてきちゃった。

 そのころ、信夫郡(ごおり)(現-宮城県名取市のあたり)いったいは、都から来た藤原豊充卿というお方が治めていたの。豊充卿には「阿古耶姫」と言う娘がいて、その器量のよさは、都にまでとどいたの。
 そんなに綺麗だったの?
 そうよ。それで、姫は、お琴も大変上手だったの。
 お琴?
 あの、正月なんかによく流れる、春の海という曲知らない? あの弦楽器、日本のハープみたいな楽器よ。
 あぁ、知っている。私あの音、好きよ。
 そう、それで、お姫様の琴の腕前も、それは素晴らしかったのよ。
 ある、晩のことだけど、いつもの通り夕食を済ませて、姫は自分の部屋に戻って、また、琴の練習をはじめの。ちょうどすすきが穂を出をして、お月様もぁまんまるく見えていたのよ。それはもう、静かな晩で、お姫様の美しい琴の音は、あの空のお月様までとどくように響いていたの。
 すると、その琴の音にあわせて、どこからか、これまたどこまでも澄んだ笛の音がしてきたの。お姫様は不思議に思って、琴の手を休めて、庭の方を見たら、若くてとてもハンサムな男の子が立っていの。
「どなたでござります? なにか御用でも」と、姫は、聞いたの。
「どなたでござります? なにか御用でも」だって。ワハハッ。おばあちゃん、変だよ!
 変だって、何が?
 だって、声も言い方もおばあちゃんじゃないわ。
 だって、お姫様だよ、少し声色使って見たのよ。その方が雰囲気が出て、面白いでしょう!
 ええ、面白いわ。
 そう、面白かった。そしたらあんまり長くなっても、ブログの読者の皆さんが、読むのが大変だから、   今日はこの辺で………この続きはまだ明日ね。
  


2007年11月15日

「やきもち鏡 2 」 (置賜)

 続きはこうだっけ。

 頓吉は殿様に頂いた漆塗りの箱を、大事に家に持ち帰って、仏壇に供えて三年待ったけど。三年目のその日、頓吉は、家の者に仏間に近づいてはならいと申し付けて、夜になると一人仏間に入って、あの漆塗りの箱のふたをそっと開けて見だっけど。
 そしたら、ビックリ、本当に頓吉の父親の顔が、その箱の中にいだっけど。頓吉は思わず、嬉しくて笑いがこぼれだっけど。そうしたら、箱の中の父親も、同じように笑っているではないか。そのうち、父親が亡くなった悲しみがこみ上げできて、頓吉は思わず泪が流れてきたっけど。そうすると、また、箱の中の父親も、同じように泪を流しているではないか。頓吉は不思議でならなくて、さすがは、殿様のご褒美のことだけはあると思って、知らずに、箱の中に父親に手を合わせて蓋を閉め、また仏壇にお供えしておったど。
 そして、そんなことが七晩続いたっけど。
 七晩も頓吉が夜になると仏間にこもるのは何故か? 頓吉の女将さんが怪しみ出すのも当然だ。女将さんは、これは怪しいと言うので、頓吉が留守の昼間に、仏間に入り、あの漆塗りの箱の蓋を開けてみたっけど。そうしたら、箱の中には、見た事もない美人の女の人がいだっけど。女将さんは、頓吉が自分に内緒で、毎晩、この女と浮気していたのだと思い込んで、頓吉が帰ってきたところで、悋気の火花を頓吉にぶつけだっけど。
 頓吉は身に覚えのない女将さんの悋気に当惑して、言い訳がましく、亡くなった父親に親孝行しているだけだと、話をしたんだど。
 それでも、そんなことは女将さんには信じられない。見え透いた嘘だろうと、さらに怒りをあらわにして、頓吉を引っ掻いたりぶったりして、なかなか治まる気配がない。
 そこでしかたなく頓吉は、女将さんと一緒に仏間に入り、漆塗りの箱の蓋を開けて見だっけど。すると、そこには夫婦の顔が映っていたのだけれど、女将さんは興奮していたためか、女の人の顔が自分の顔であることに気づかずに、頓吉を押し倒してぶち続けだけど。
頓吉はたまらず、ほれよーく見てみろ。ここには俺の父親が映っているだけだ、と言って、女将さんに、箱を向けたのだが、そこには女将さんの顔が映っていたっけのよ。
 頓吉は、はっとして、ようやく殿様の頓知に気がついで、「まてまて」と、女将さんを何とかなだめて、殿様の頓知のわけを話してきかせだっけど。
「ほら見で見ろ。ここに映っている美人は、お前の顔ではないか」と、頓吉が女将さんに言うと、女将さんは顔を真っ赤にして、恥ずかしながら、頓吉に抱きついて、その晩は、夫婦仲良く、同じ布団に入って寝だっけど。
 それから、その漆の箱は、頓吉の家の大事な家宝として、代々、大事に受け継がれていったと言うことじゃ。
   とんぴん、さんすけねぇっけど。
  


Posted by ほんねず at 23:21Comments(0)トンチ話

2007年11月15日

「やきもち鏡 1 」 (置賜)

むがしあったずもな。
 ある村さよ「とんち」好きの殿様がいだっけど。ほんで、毎年、「とんち祭り」開いでいでよ、今年もほんてん変な問題ば出したっけど。その問題って言うのはよ、灰で縄ばなってみろっていうものだけっど。
 ところが、この殿様に、さらに輪をかけたような「とんち好き」の百姓がいだっけど。
名前は頓吉《とんきち》と言ったけど。
 頓吉は、幾晩も考え続けて、「とんち祭り」の日に、殿様の前に進み出て、鉄鍋を献上したっけど。その鍋の中には、見事な灰でできた縄が入っていたっけど。
 殿様はその灰でできた縄を見てビックリしてしまって、腰を抜かした程だっけど。殿様は、頓吉にどんな方法でこの縄を作ったのか訊ねたっけずもな。
 頓吉はさも自慢げに話したっけど。
「ほいずぁ簡単なごどであんす。普通に縄ばなってから、鍋にぶっ込んで火を付けで灰にしただけであんす」
「ほう、そうであったか。頓吉、いつもながら見事な頓知である。褒めてとらす。褒美をつかわそう。望みのものを申せ。」
「へぃ。」と、頓吉はしばらく考え込んでから、殿様にこう申し上げたそうな。
「あの、殿様、おら、物はいらね。ただ、去年亡くなった親爺にも一度会って、親孝行の真似事がしたいと思いやす。」
 殿様はその望みを聞いてしばらく考え込んでから頓吉に言ったけずもな。
「頓吉、お前の孝行心には、頭が下がるの。まさしくわが領民の鏡である。お前の望みをかなえてやろう。」と、ご機嫌だっけど。
「へぃ、さすがは殿様。ありがたいことで。」
頓吉は殿様にお辞儀をしていたら、「ほら、これをつかわす。」と、殿様が、漆塗りの立派な箱を下さったけど。そしてこう言い足しっけど。
「そうじゃの、これから三年の後、この箱を開けて、中を覗いてみよ。さすれば、そこにお前の父親が必ずいる。必ずにな。ただしその箱を開けるときは、部屋には誰も入れずに、お前一人で開けることに限るぞ。さもなければ、父親はたちまち消えてしまうからな。」と、念押しをして、渡してよこしたっけど。
                 続きはまだあどで………
  


Posted by ほんねず at 09:41Comments(0)トンチ話

2007年11月14日

阿古耶姫 4 」 (村山)

ばんちゃん、つづきはどうなんの?
ほんでば昨日なのつづきだよ
その晩、阿古耶(あこや)姫が床さついだ。んでも左衛門太郎のことが心配で寝付がんね。ほだげど、ろくすっぽ食わねで、毎日眠らんねっけがら、もう体の方はへとへとにくたびっででいたっけど。んだがらだべが、ほういずあしゃあねげんとも、姫は床の中で、ついうとうとど眠ってしまたけど。ほうすっど不思議だね。姫は夢ばみだんど。でも、姫は夢どは思わねべしたん。
んだ、やつれ果てた姫の枕許さ、あの左衛門太郎が立って、笛吹いでいだっけど。姫は夢うつつで聞いだけど。左衛門太郎は、ふと笛を吹くのを止めると、姫の枕許にしゃがみこんで声かげだけど。
「姫、姫、私でござる、左衛門太郎でござります。」
「あっ!」 姫がハッとして気づいた。
「左衛門太郎様、お逢いしとうございました。」
「私も……」
二人はひしと抱き合った。まるで、時も止まったがど思われだけど。風も川の流れも、虫の声さえもぴたっと止まった。
やがて、左衛門太郎が姫を胸に抱いたまま、静かに語り出した。
「姫、私は姫に嘘をついておりました。私は名取の左衛門太郎ではないのです。私は、本当は隣の国、最上の千歳山の頂に生える「松の精」でございます。あの時、姫のお琴の音が、はるか峠を越えて千歳山の頂まで届き、その妙なる音色に誘われるまま、姫と出逢ってしまったのです。そして、私が姫についた嘘を、天が咎められました。松の精と言うこの世のものではない私が、姫を愛してしまった罪を問われたのかもしれません。そのためか、この度の嵐で流された、名取川の大橋の用材として、私は伐採されてしまったのです。」
「………」 姫様は松の精の胸の中でわなわな震えながら聞いていだけど。
「ただ、あのように切られたまま千歳山を離れ、名取橋の用材になれば、死んで姫のおそば近くまでやってこれますが、二度と左衛門太郎としては逢うことがかないません。されど、このまま千歳山にとどまっては、名取川に橋はかかりません。私は進退窮まりましてございます。それで思い余って、姫に最期のおめもじをと思い、まかり出たのでございます。」
左衛門太郎、いや、松の精の話を聞き終えた姫は、もう泣いてはいなかった。そして、姫は意外にも気丈に左衛門太郎の顔を見つめながら言ったけど。
「左衛門太郎、いや、松の精殿、私と二世の契りを交わした気持ちには偽りはありませんか?」
「はい、それは命に代えて偽りはございません。だから、こうして………。」
「そう、松の精殿のご誠実は、あの笛の音にようあらわれおりまする。私はあなたを心から信じています。」
「嬉しゅうござる。しかし、姫の行く末を考えると、私は胸がつぶれてしまいます。どうぞ、もはや、私のことはお忘れいただき、姫にはぜがひにも幸せになってほしいと思います。ただ、このことだけをお伝えできれば、私は思い残すことはありません。もう直ぐ夜明けです。おいとまを頂かなければなりません。それでは、お名残惜しくはありますが、さらばでござる。」 って、松の精が言うずど、姫の枕許から消だっけど。
姫が、朝になって目ば覚ますどすぐ、父親の豊充卿の前へすすみ、夕べの出来事をつまびらかに語り、その上で、父親にいとまを請うったけど。

……間……

姫はすぐに旅支度を整えると、最上の国へ旅立ったけど。峠の山道は、女の足ではさぞ難儀だと思われるのだが、気丈に姫は歩き続けたけど。翌日の夕方頃には千歳山のふもとに着いたけど。夕日に映える千歳山は、この世の美しさとは思えないほどであったけど。
次の朝、姫が千歳山の頂に上ると、ほさは、松の老大木が無惨に切り倒されていだっけど。
姫は切り倒された大木の前に、簡単な祭壇を作り、そこに座り、心を込めてお経を唱え初めだど。ほうすっど、あれま、松の老大木が、一瞬、身震いしたみでに見えだけっど。
してがら、皆の衆が力ば合わせで、松の木ひっぱたれば、びくとも動かねっけのが、嘘みでぃにすっすっど、動き始めだど。ほして、名取川さは立派な大橋が出来だっけど。
阿古耶(あこや)姫は、千歳山の頂さちっちゃい庵ば建てで、一生そこで松の精の菩提を弔い続けだっけど。
   どんぴん さんすけ おしまい
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Posted by ほんねず at 15:11Comments(0)山形の民話(村山方言版)

2007年11月14日

「見えない織物」 (置賜・標準語版)

おばあちゃん、おばあちゃん、とんと昔、とんと昔、お話して。
子供たちの声が子供部屋のベッドから聞こえてきた。
今夜もおばちゃんは孫にとんと昔を語り継ぐ。
こうして、何百年も人の心のありようが受け継がれていくのでしょう。

  設定:おばぁちゃんと、孫のさくら(小3)のとんと昔語り


むがし、むかしのお話です。
あの、さくら、年貢って分かる?
わからない!
そう、昔、村は大名と言う殿様が治めていたのね。それで、毎年、田圃で作った米は、半分以上、お城に納めなければならなかったのよ。だから、米を作っていた百姓さんたち、そうだね、さくらのご先祖様たちは、自分達では、米を口にすることはできなかったのよ。
それじゃ、なにを食べていたの。
そうだね、なにを食べていたんでしょうね。
餅。お餅かな。
アハハッ。そうだね。さくらは餅が大好きだものね。
違うの?
違うかも…。
……… さくらがおばあちゃんの顔をのぞき込んでいました
いい、話の続きをしても… おばあちゃんがさくらを見て、にっこり笑っていました。
うん、お願い!
その、お城に納める米のことを「年貢」って言ったのよ。
年貢……年貢って言うんだ。
そう。でも、ある年の夏、冷たい風が吹いて、米が取れない年があったのよ。
お城に納める年貢もなくてね、村の人たちも困り果てて、みんな青い顔して頭をかえてしまっていたのよ。
そんなとき、お城から使いが来て、米がなければ、代わりに、お金で三十両納めよっという命令をしたのよ。
えっ、そんなこと無理な命令だわ。
そうね。無理な話よね。庄屋様のところにも、そんな貯えはないし。
三十両か。もし、三十両払えなかったらどうなるの?
そうね。ただではすまないでしょうね。
それじゃ、どんなことしても何としなければならないのね。
でも、捨てる神あれば拾う神ありっていう、古いことわざがあるけど、ちょうど、そこに、ある男が名乗りを上げたのよ。面構えはふてぶてしく、すこしずるそうで、ニヤニヤ笑いを浮かべでいたぐらい。
誰? その人。
悟介さんって言う人で、村一番の知恵者って言う評判があった人よ。
悟介さん?
そう、悟介さんは、村の人たちを前にして胸をはって、「おれに任せろ」 って言ったのよ。そして、次の朝、一人でお城に出掛けていったんだって。
お城についた悟介さんは、門番に年貢を持って来たから、お殿様に取り次でくれるように頼んだのよ。
では、というこどでお城の広い庭に通されました。
最初に出てきたのは、お役人。
「その方、年貢を持ってきたと言うが、どこにある。どこにもないではないか。」
「いえいえ、ちゃんとここにござります」 って言うと、悟介さんは風呂敷包みを、お役人に差し出したのよ。
「これが、年貢じゃと。」
「へぃ。これは、山のウグイスの声を縦糸に、野原のマツムシの声を横糸にして織り上げました、世にも珍しい綾織でござります。」
「どれどれ、そんな織物はどごにある。」
「へぃ、ここに。」って、風呂敷をほどいて見せたのね。
役人は目を皿にして見つめたけれども、織物なんてどこにもなかったわ。
「こらっ、何にもないぞ。下手な嘘を言うと、ただではすまぬ。そこになおれ。」 って怒ってしまったわ。
それでも、悟介さんは平気の平左。
「お役人、この織物が見えないのですか。もしかして、あなたの目と心はどうも曇っているのではないでしょうか。」
「なにを、百姓の分際で役人を愚弄すとは…… そのままでは捨て置かぬ」 って、顔を真っ赤にして頭から湯気をあげてしまったの。
悟介さんは、それでも、涼しい顔をしてこう言ったの。
「お役人様、その短気が邪魔をして、世の中のことも、この織物のことも、何も見えていないんじゃない。そもそも、この織物は、心清く正き者にしか見ないものなんでよ。」 って、言ったのよ。
「なにおっ! そのような悪口雑言、許さぬ。首をはねてくれる。」 って、お役人は刀をぬいて、上段に構え今にもと言うとき、「まてまて」 って、止める人がいたの。
その人は、お城のお殿様だったのよ。
「騒ぎのわけを聞こう。」 って、お殿様が言うと、役人がかくかくしかしかって、わけを話した。
殿様は「うんうん」とうなずきながら聞いていたの。
話を聞き終わった殿様は、「どれどれ」 って、悟介さんの前にしゃがみこんで風呂敷を持って開いて見たの。
すると、殿様はニコニコ笑って、「その方が、悟介と申すか。それにしても、見事な織物であるな。七色に光って、こするとウグイスとマツムシの声が聞こえる。」 って、言ったの。
「ほーっ、さすがはお殿様だね。この織物の美しさがお分かりになるとは」
「おう、分かるぞ、このような美しい織物は世も初めてじゃ」
「お殿様のお心は、まさに清く正しくござる」
悟介さんは下をむいて、舌を出してにんまりしていたって。悟介さんって、ほんとに、度胸があったのよね。あのね、世の中には「悪知恵」と「方便」という二種類の嘘が歩けど、悟介さんのどっちだったのかしらね?
殿様は、「左様か、わしの心は清く正しいかの?」
[この織物が、殿様の目にはちゃんと見えておられることが、何よりの証拠でござります。]
「これ悟介、この綾織を年貢の代わりに納めたいと申すのだな」
「へい、今年の夏は冷害だったので、村のみんなも年貢のこどですっかり頭抱えています。それで、私が村を代表して、お殿様に、年貢の代わりに、世にも珍しい綾織を献上に上がったわけです。どうでしょう、お殿様、この綾織で年貢の代わりにしいただけないでしょか。」 って、悟介さんは言ったの。
「ほう、それで、この綾織の値はいかほどであるか?」
「そうですね、この綾織を織るのには、十年、山に籠もって、苦労に苦労を重ねました。だから、十年分の値となると三十両もいただければ。」
「三十両か、安いの。ちょうど村に申し付けた年貢の値じゃな。それでは、手間賃として、さらにそちに十両をつかわそう。それでどうじゃ。」
「はっ、はぁ~。」 って、悟介さんは、お辞儀お何回もして、手間賃の十両を押し頂いたのよ。
悟介さんは、年貢を無事納めだほかに、十両を懐にして、村に帰っきたんだって。村のみんなは大喜び! 祭りをひらいで、みんなでお祝いをしたの。
お城では、殿様が天守閣から、祭りの様子を眺めで、ニコニコ笑っていましたとさ。
      どんぴんさんすけ かっぱの屁
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Posted by ほんねず at 08:12Comments(0)山形の民話(標準語版)

2007年11月13日

「阿古耶姫 3 」 (村山)

ばんちゃん、昨日のつづぎ………
んだね。昨日なのつづぎだよ
阿古耶(あこや)姫は、それからは何をしていても気もそぞろ。夜になるのが待ち遠しくて仕方がない。姫の願いがかなって、ようやく日も暮れ夜も更けたころ、どこからともなく、澄んだ笛の音が風を渡って聞こえてきたけど。
笛に合わせて、姫も琴を爪弾き始める。その合奏の見事さは例えようもないほど妙なる響きであったけど。
二人は、こうして夜毎、琴と笛を奏で合いつづけた。ほれごそ、来る日も来る日も、二人はやがて、身も心も惹かれあい、ついには深く情を交わす仲となっていたけど。

……間……

楽しく幸せな時は瞬く間に過ぎでいぐ。ちょうど一年が過ぎたころだ。
大嵐、今で言う台風だなね、んだ、ものすごい台風よ。ほして、名取川が大洪水になって、街道さ掛かる名取大橋も流さっでは、村の衆も旅の人も大困り。まして、台風の被害はそれだけではなくて、家と一緒に子供も流されちまったもの、土砂崩れで生き埋めになったもの、倒木に挟まれて絶命したもの。数えでも数えでもきりがねぇ。ほのぐらい大変な被害だっけど。
ほしたら、その日を境に、左衛門太郎もぱたと来ねぐなたっけど。
姫様は心配で、心配で、いでもたってもいらんね。日に日にやつれて行いたけど。姫の様子ばみっだけ家人は、父親の豊充卿にも報告したけど。豊充卿は姫が心配で、家人たちさ命じて、八方手ば尽くし、左衛門太郎ば探させだげど。ほんでも、ようとして行方が知れねけど。

……間……

ちょうどそのころ、名取大橋の架け替えの話が持ち上がって、材木の調達ば急いでいだんだけど。多勢の人が刈り出さっで、信夫の国中探しても、いいあんばいに大きな木見つからねぐて、困って、熊野神社の巫女ば頼み、占いばたてだっけど。
巫女が言うには、「橋の材木は、もはやこの信夫の国にはない。あっどすっど、あの峠ば越で、隣の最上の国の千歳山の頂に生えでいる松の木しかない。」って言ったけど。
したれば、さっそく国中の樵が集められ、最上の国に出かけで行って、千歳山の頂の松の大木を切り出して、運ぼうとしたんだど。
ほんでも、松の木はぴくとも動がね。なじぇなごどしても一切動かねけっど。
動がねごんたらしかたね………はい、話はまだ明日。
  


Posted by ほんねず at 21:15Comments(0)山形の民話(村山方言版)

2007年11月13日

「阿古耶姫 2 」 (村山)

ばんちゃん、昨日のつづき、はやぐはやぐ………
んだが、ほしたら話の続きな……

「どなたでござります? 当、館になにか御用でも」 って、姫様、聞いだけど。
「いえ、ただ、あなたのお琴の音色が、あまりにも素晴らしかったもので、断りもなく気づかぬまま、こんな庭の奥にまで…… 大変失礼を致した。ご容赦ください。私の名は、名取の左衛門太郎と申す。以後、お見知りおきを願いたい。」
「これは、これは、ご丁寧な申し状。いたみいります。私はこの館の主、藤原豊充が娘、阿古耶(あこや)と申します。」
「左様か。阿古耶(あこや)姫と申されるか。」
「はい。」
「いい名じゃ。それで、厚かましいのは承知の上で、一つ所望したいのだが……」
「あら、何でござりましょう。もし、私で用が足りるのなら何なりと……」
「では、遠慮なく。もう一曲、姫のお琴と私の笛で、調べを楽しめまいか!」
「オホホホッ。はい、よろしゅうございますとも」
ほうして、二人は一緒に曲を奏ではじめだけど。
二人は、時の経つもの忘れて、ほれごそ夢中になって、曲ば弾きつづけだけど。
いずのまにが、東の空が白み初めだけど。
左衛門太郎は、夜明けが近いことさ気づいで、はたと笛吹くのば止めで、姫様の前さひざまづいて言ったけど。
「阿古耶(あこや)姫。今宵は本当に楽しゅうございました。しかし。間もなく夜が明けます。私は帰らねばなりません。」
「な、な、なんと。左衛門太郎殿。お帰りあそばされるのか?」 って、お姫様が言うと、よよと泣き崩れてしまったど。
「姫、姫、如何された?」
「いえ、私も今宵のような演奏は、初めてで、身も心もすっかり清められたのですが、左衛門太郎殿が帰られてしまえば、もう二度と今宵のような演奏が叶わぬと思うと、つい泪があふれてきてしまったのです。」
「おお、そのようなことでありましたか。それでは、こういたしましょう。もし姫さえよければ、明晩、また私がこうしてここをお訪ねしよう。そして、今宵のように二人で演奏しましょう」
「まぁ、嬉しい。本当でござりますか?」
「はい、必ず! では、明晩」 と、左衛門太郎は帰っていったけど。
はい、左衛門太郎も帰ったがらって、話もまだ明日な…
なんだ、ずるい。
ハハッ、とにかくまだ明日。
  


Posted by ほんねず at 06:54Comments(1)山形の民話(村山方言版)

2007年11月12日

「阿古耶姫 1 」 (村山)

ばんちゃん、ばんちゃん、とんと昔、とんと昔、語ってけろ。
おぼこだの声が寝床から聞こえできだ。
今夜もばんちゃんは孫にとんと昔を語り継ぐ。
こうして、人の心のありようが、何百年も受け継がれていぐんだべな。


笹谷峠って覚えっだが?
覚えっだ。この間、ばんちゃんと一緒に行ったけ「ぼけなし観音」のどごだべ。
んだ、よぐ覚えっだな。今日はよ、笹谷の峠ば越えだ、信夫郡って言うどごさいだっけ、さるお姫様ど、あの千歳山の松の精どの、悲恋の物語ば語って聞かせっかな。ところで、さくら、お前は年なんぼなたのや?
ウフッ! 十二だ。
この間、赤飯炊いだもな。少し大人の話っ子だよ。
ウワ~ッ!
そのころ、信夫郡いったいはな、都から来た藤原豊充卿というお方が治められておってな、豊充卿には「阿古耶(あこや)姫」と言う娘がおって、その器量のよさは、都にまでとどいっだけって言うもな。
ほだい綺麗だっけの?
んだど。ほしてな、姫はよ、お琴もじょんだんだけど。
琴?
あの、ほれ正月に庄屋様のばばはんが弾く、綺麗な音するなあっどれ、あいづば「琴」っていうんだ。
ああぁ、あいづが。おらあの音、好きだよ。
お姫様の琴の腕前も、ほいずぁ素晴らしいっけど。
ある、晩げのごどだけど。いつもの通りままも食い終わって、姫は自分の部屋さ戻って、また、琴の練習はじめだっけど。ちょうどすすきが穂出して、お月様ぁまんまるぐ見えだけど。それはもう、静かな晩でよ、お姫様の美しい琴の音はよ、あの空のお月様までとどぐようだっけど。
ほうすっど、その琴の音さあわせで、どこからが、これまたどこまでも澄んだ笛の音がしてきだけど。お姫様は不思議に思って、琴の手ば休めで、庭ば見だれば、ほさ、若くて様子のいい男、立っていだっけど。
「どなたでござります? 当、館になにか御用でも」 って、姫様、聞いだけど。
「どなたでござります? 当、館になにか御用でも」 って、ワハハッ。ばんちゃん、変だよ!
変だって、何が?
だって、声も言い方もばんちゃんでねもの。
ほだて、お姫様だじぇ、少し声色使って見だべしたん。おもしゃいべ!
ん、おもしゃい。
んだが、ほしたらあんまり長くなっど、読むの大変だがら、この続きはまだ明日。。
  


Posted by ほんねず at 13:53Comments(0)山形の民話(村山方言版)

2007年11月07日

金の目銀の目 (村山)

「ばんちゃん、ばんちゃん、とんと昔、とんと昔、語ってけろ。」
おぼこだの声が寝床から聞こえできだ。
今夜もばんちゃんは孫にとんと昔を語り継ぐ。
こうして、何百年も人の心ありようが受け継がれていぐんだべな。

むかし、あったけど。
旅の坊様、山道ば歩いっだけど。
どんどん、どんどん歩いっだけど。
日が暮れて夜になたけど。
どこが、泊まっどごねぇべがと思ったら、谷の底のほうさ、村の灯り見えだっけど。
坊様、ほっとして、早速、村さ行ったけど。
「まんず、今晩、一晩、宿かりらんねべが?」 て、願ってみだっけど。
んでも、ほの家では、「今、客がいで、泊めらんね」 って、断らだっけど。
つんぎの家でも、「寄り合いあって、泊めらんね」 って、言わっだけど。
ほしたれば、「村はずれに空き家になってだお屋敷ある。ほごだれば、誰さも遠慮すねで、宿取れる。」 って、おしぇらっだけど。
坊様はおしぇらっだとおり、行ってみだれば、ほの屋敷、荒れ放題では、まんずバゲモノ屋敷みでぇだっけど。
夜露は体さ障る。ほんで、一日、歩ぎ続け来たがらよ、うんとくたびっで(疲れて)もいだがら、気味悪さば我慢して、家さはいって、いいあんばいの押入れあっけがらそこさつぐもって眠ったけど。んでも、かび臭えし、埃っぽくて、寝づけるわげもねぇっだなね。
ほしたれば、奥の座敷で、ガダッガダッて音したっけど。
坊様はいよいよおっかねぐなったけんども、ほいずあほれ、怖いもの見たさってあっべ、んだがらよ、そっと音するほう見だっけど。
ほうすっど、奥の暗闇から金色と銀色の光が動いできて、囲炉裏端さ座ったみでだっけど。もぞもぞしたれば、囲炉裏さ火熾ぎで、やっと姿わがってきて、ほの姿ば見だ坊様たまげで腰抜かしたっけど。
ほの二つの光は、金の一つ目入道ど、銀の一つ目入道だっけずもな。
囲炉裏の煙で、目ばぱちくりどしばつかせでいっど、なんとも不気味で妖気もめらめらど立ち昇っていで、坊様はぶるぶる震えきたっけど。
ほうすっど、金の一つ目入道が、「クスノ木」
銀の一つ目入道も「クスノ木」 って、大声で叫んださけんだっけど。
「はい、はい」 って、今度は別な声で返事したっけど。
土間の隅っこの暗がりから、わらし子出はって来て、二人の入道の前さ手ばついで挨拶したっけど。
「クスノ木。網わだすど餅っ子持って来い」 って、金の一つ目入道、語っだけど。
「へぃ…!」 って、わらし子言うど、土間の暗がりさ消えで、ずけ、網わだすど餅っ子ば持って来たっけど。
入道二人ぁ、囲炉裏で餅焼いで、たらふぐ食って、「はぁ、腹いっぺいだ。」 って、銀の一つ目入道言ったけど。
「まだ明日くっぞ。」 って、二人の入道が、もど来た奥の座敷の暗闇さ消えで行ったけど。
わらす子も消えだっけげんとも、囲炉裏の火だけまだ燃えっだけど。

……間……

坊様、なんと不思議なもの見だんだべづね。
坊様ぁ、おっかねぇの(怖い)のも忘っでは、かぶり(頭)ばふりふり、しばらぐ考え込んでいだっけげんとも、はっとした顔したっけど。
「クスノ木。クスノ木」 って、今度ぁ、坊様が呼んでみだっけど。
ほうすっど、「はい、はい」 って言って、さっきど同じように、わらす子、土間の隅っこの暗がりがら見えできたっけど。
「あんのな、おら旅の坊主だげんとも、いましがたみでぇな不思議なごど初めででな、たまげだのなんのって、ほんでよ、なじょしてでも、わげ知りだぐってよ、にさ(お前)ば呼ばってみだどごだ。」 って、語っだけど。
ほしたればよ、そのわらす子、顔ば伏せじまって、しくしく泣き初めだっけど。
そういずば見だっけ、坊様、「あらら、なじょしたまんず。なして、泣くのや。おら、にささ悪いごど語ったんだべが?」 って、すまなそうに言ったっけど。
「ほんね。ほだなごどねぇのよっす。」 って、わらす子言ったけど。
「ほしたら、何で泣ぐのや?」 って、坊様、聞いだっけど。
「ほいずぁねっす、あの、金と銀の一つ目入道様だぁは、この家の上段の座敷の縁の下さ埋らっでだ、銭壷の精でござりあんす。ほして、おらはど申しますど、この家の大黒柱の土台石の下さ芽ばだしたクスノ木でござりあんす。とにがぐ、ほんてん長いごど、土の中さ埋らっでいで、お天道様の顔ば見だごどがなくては、ほんで、こだいした姿で、夜毎出てきったっけのよっす。」 って、泣ぎ泣ぎ語ったけど。
「ん~っ、ほだなわげだっけのが。わがった。わがった。ほだらば、おらさまかせでけろ。悪いようにすねがらよ。」 って、坊様、言ったけど。
「んだがや…。んだがや…。いがった、まんず。長いごど待った甲斐あった。ほんてん、いがった。坊様、お願いするっす。」 って言うずど、わらす子は、土間の暗がりさ消えでいったけど。

……間……

つんぎの朝、坊様は村の衆さわげ話て、手伝ってもらって、上段の座敷の縁の下ば掘ったけど。ほうすっど、あのわらす子言ったとおり、大っきい銭壷でてきたっけど。大黒柱の土台石の下さは、ほんてんちっちゃいクスノ木の芽ではったけど。
坊様は、村の衆どはがって、その銭で寺ば建てで、住職さおさまって仏の功徳ば広めで行ったけど。寺の庭さは、クスノ木が大っきおがって、いつまでも見守ってけだっけど。
    どんぴん、さんすけ……  


Posted by ほんねず at 18:08Comments(0)山形の民話(村山方言版)

2007年11月06日

キノコのバゲモノ (最上)

「ばんちゃん、ばんちゃん、とんと昔、とんと昔、語ってけろ。」
おぼこだの声が寝床から聞こえできだ。
今夜もばんちゃんは孫にとんと昔を語り継ぐ。
こうして、何百年も人の心ありようが受け継がれていぐんだべな。

むがし、あったけど。
ここだら、ここだら、村の境の峠さ、毎晩、バゲモノ出はったけど。ほのバゲモノは、人来っど、「おうしぇ、待でぁ、おうしぇ、待でぁ。食い物、置いでいげ。食う物なげればんにゃ(お前)食うぞ」 て、おっかなぇ声で、さげぶなだけど。ほんで、おかなぇくて、おかなくてぇ、誰も、峠ば通る人えねぐなったけど。
村のしたづぁ(人達)、困てしまて、
「誰が、あのバゲモノ退治してける人、えねべがやぁ」 って、ほんだっても、誰も、えねけど。
ほしたれば、ほごさ、「なえだ、バゲモノなて、あるもんでなぇじゅ、俺、退治してける。」て言う人、来たけど。
ほして、ほの人ぁ、「おうしぇ、待でぁ。おうしぇ、待でぁ。バゲモノいねが? 旨そうなバゲモノいねが?」て、さげびながら、峠さえったけど。ほうしたれば、やっぱす、向こうの方でも、「おうしぇ、待でやぁ。おうしぇ、待でやぁ。俺、腹すいだ。食い物、置いでいげ。食う物なげればんにゃ(お前)食うぞ」 て、さげぶけど。
ほうすっど、「ほの人ぁ、俺もバゲモノだ。お前ぁ、何のバゲモノだ。」 て聞くじゅど、
「俺ぁ、代々こごさえる大食いのバゲモノだ。こごら辺で一番えらえ、峠一のバゲモノだじゅ。ほう言うお前ぁ、何のバゲモノだ。」 て言うけど。
「俺は、バゲモノ食いのバゲモノだ。大食いでは負けねぞ。んだら、バゲモノどバゲモノ、大食いの知恵競べすんべ。」 て、ほの人ぁて言うじゅど、バゲモノぁ、「ほいじゅあぁ、えがべなぁ」て言うけど。
「んだら、俺がら聞ぐげど、お前の一番おかなえものぁ、何だぁ。」 その人ぁ聞いだけど。
「俺の一番おかなえなぁ、にすん(鰊)と茄子だ。あれ見っずど、体中ザワザワ言う。」
て、バゲモノ、言うたけど。
「んだら、んにゃは、何おかなぇや。」 て、バゲモノ聞ぐっけど。
「俺ぁ、おかなえものぁ、砂糖餅だなぁ。何おかなえて、砂糖餅くらい、おかなえものぁなえ。」 て答えだけど。
「ほう、砂糖餅おかなえてがぁ。おがすぇもんだ。俺だごんだら、砂糖餅ぁ、大好きだ。」
て言うたけど。
「んだら、明日の晩、おらいのかが自慢の砂糖餅、持て来てける。おらぁ嫌いだであんばいいい」 て、その人ぁ帰て来たけど。ほうして、次の晩、
「おうしぇ、待でぁ。おうしぇ、待でぁ。」 て行ったれば、
「おうしぇ、えだ(居た)。ここだ。ここだ。」 て言うけど。ほうすっど、ほの人ぁ、いぎなり、「ほれ、砂糖餅。」て、にすん(鰊)ど茄子、ばらばらど、ぶって(投げて)やったけど。バゲモノぁ、たまげて、
「あー、あー、おかねちゃ。おかねちゃ。あー、えっだえ(痛い)、えっだえ。砂糖餅なて、この野郎ずほ(嘘)こえだな。よーす、この野郎。殺してけねんね。」
てごしゃいで、せんに(前)からためっだけ、虎の子の砂糖餅、「ばらばら」ど、ほの人ぁさぁ、ぶって(投げて)よごしたけど。
ほの人ぁ、「おかなぇちゃ、おかなぇちゃ。痛だえちゃ、痛だえちゃ。」 て言うて、こそっと、「んまえ(旨い)、んまえ。」て、砂糖餅食ったけど。ほうすっど、バゲモノぁ、
「この野郎、まだ生ぎっだが、んにゃどご、生かしでおがんなぇ。」 て、まあだ、砂糖餅、どんどんぶって(投げて)よごしたけど。
ほんで、ほの人ぁ、食うたてらんなぇ(食べきれない)砂糖餅ば、ふところさ一杯へっで(入れて)家さ帰ってきたけど。
つんぎの朝早ぐ、その人ぁ「なんたバゲモノだべ。よんべ(昨晩)のバゲモノぁ。にすん(鰊)と茄子ぶったれば、「えだえ(痛い)、えだえ。て言うけな。」 て、村境の峠さ行って見だれば、ほれごそ、おっけくて(大きくて)、おっけくて、見だごどもなえよな、大けなキノゴ、道一ぱえなて、「びちゃっ」てつぶっで、えだけど。ほして、菅笠よりも、唐傘よりも、大けなキノゴ、一面穴あえっだけど。
「こりゃ、たまげだもんだ。ゆんべ(昨晩)のバゲモノぁ、キノゴのバゲモノだけながぁ。」て、穴あえだ茸キノゴ、はきご(籠)さ、一杯へっで(入れて)背負って来たけど。ほして、「はぁあ、ばげものぁ、にすん(鰊)きしゃえ、(嫌い)だて言うけ、どれ、んだら鰊入っで、煮で食うべ。」て、煮て食たれば、んまぐで(旨い)、んまぐで、べろ(舌)おかげでいったけど。
   とんぴん、すかんこなえけど。  


Posted by ほんねず at 13:14Comments(0)山形の民話(最上方言版)

2007年11月02日

「福の神」 (置賜)

「ばんちゃん、ばんちゃん、とんと昔、とんと昔、語ってけろ。」
おぼこだの声が寝床から聞こえできだ。
今夜もばんちゃんは孫にとんと昔を語り継ぐ。
こうして、何百年も人の心ありようが受け継がれていぐんだべな。

むがし、あったけど。
ある村さ、親切で正直者の夫婦いだっけど。名ば正吉とおみよと言ったけど。
ある年越(としと)りのごどだずもな。その晩は吹雪(ふぎ)でよ、ぼだゆき(深雪)ではぁ、こぐ(歩く)のもたいへんだっけど。
そんげな晩方、めっぽうやつれた顔で、ぼろのなりした爺様が、常口(玄関)ばただいだっけずもな。
「一晩、宿かしておぐやい(ください)、ぼだゆき(深雪)でこがんねっぐってはぁ(歩けない)、しゃあます(往生)してっがらよ」 ってな。
そうすっど、その家ではなぁ、
「まんずなぁ、年越りの晩でせわしいさげ、ぶじょうほだげんとも、まだ来ておぐやい」
て、けちょけちょどこどわらだっけど。爺様はしぇずねぇがったども、ほんでも、また、隣の家さ行って頼んでみだっけど。
んでも、どごの家でもこどわらっで、ほんてんがおってはぁ(がっかり)、なじょしたらいがんべがど思って肩ばおどしてほだゆき(深雪)ばこいで(歩いて)いったっけど。
村はずれまで来っずど、ちっちゃい家の灯り見えだっけど。爺様はさいごの頼みど思って、思い切ってその家の常口 (玄関)ばただいだっけど。このちっちゃい家は、親切で正直者の正吉とみよの家だっけもな。
爺様は寒じぎで(寒くって)、精も魂も尽き果てで、常)口((玄関)ですぐだまったけど(身動きできなくなる)。
「こりゃ、大変だ! みよ手ばかせ。とにがぐ火のそんばさ。」
「あいよ」

「おっ!」 爺様は四半時(30分)もすっずど、気づいたけっど。
囲炉裏でばえだ(薪)、パチパチ音たてでぬぐぬぐ燃えっだけがら、爺様も助かったんだ。
「あらら、どうも、おしょうしなっす(ありがとうございます)」 爺様が気がついで言ったど。
「爺様、こんげな吹雪の晩、さぞ難儀なごどでありぁしたなっす。体の芯まで寒じだんであんめぇが。まんず、風呂でもなんたべね。さら湯(一番風呂)だがらよっす。」 って、おみよは風呂ばすすめだど。
「ほだな、もったいない、おらしぇーずはぁ」 って、爺様は遠慮しったけっど。
「ほだなごどやねでよ、遠慮すねで、ほれ、ほれ、どうぞ。」
「んだがや、なんだて悪いねっす。」 て、爺様はやっとご風呂さはいったど。

「どうもおしょうしな。まんず、風呂はよ、いいやんばいだけなっす。」 て、爺様はぁ、すっかりのぼせでいだっけど。
囲炉裏の縁さは、魚つけだ御膳あって、燗酒もだして、まんずすんばらしいもでなしだっけど。
「爺様まんず、たんとあがっておぐやい」 おみよが酒ついだけど。
「おとっおとっ、まんずおしょうしなっす(ありがとう)」 爺様は、酒呑んですっかり出来上がってきたっけど。爺様、正吉、おみよの三人で、ひとしきり歌って踊って、それはもう楽しがったど。息上がった爺様が囲炉裏の前さどっかど座っずっど、
「今度はぁ、一つおもしゃい話っこぶってみっか。」 っていうたけど。
正吉もおみよも身ば乗り出して聞き耳たてだっけど。

むかし、ある家さ貧乏神住んでいたっけど。
二親は流行病であっけなぐ死んだけずもな。倅は気抜けては、野良仕事もすねで、酒・博打・女郎買いとまぁ、半分ヤクザになりかけだけど。
村の衆が心配して無理やり、嫁っ子世話してむかさりぶったど。
倅は、嫁っ子があんまりめんこいんで、じぎに気ば入れなおして野良仕事さ精出して、たちまち傾いっだっけ家の屋台骨ぴんとたったけど。
その年の年越しの晩、天井裏でしくしく泣く声がしたけっど。
泣くのはだれだぁ? って聞いだけっど。
すっど、おらぁ貧乏神だ。
なして泣いでんのや? って聞いだれば、
この家すっかり金持ちになったがら、ずけ、福の神くっど。
んだど、おらぁ用無しだはぁ、この家出はらんなね。んだがら悲しぐって泣いっだけどごよ。
………間………
おい、貧乏神、にしゃ(お前)はよ、おらいの家出ていぐたいんだが?
ほだなごどない。
んだらさすかいないがら、このままいろは。
んだたて……
んだたてもへちまもね。福の神来たら、にしゃがぼだしてやれ。
んだ、ほれ魚食って、餅食って、干し柿くって力うけろ。
ここの家の倅ど嫁は、なじぇなもんだがそんぴんたかりで、貧乏神ばけしかけずだもな。
そごさやってきた福の神、貧乏神と相撲をとって負けでしまったど。
福の神は慌てて、その家がら逃げ出したっけど。あんまり慌てだもんで、大事な打ち出の小槌、忘っでいったけど。貧乏神はその打ち出の小槌ば拾って、自分が福の神になって、その家ば長者にしたっけずもな。
  どんぴんさんすけ かっぱの屁

貧乏神が福の神になったてが。そいづぁおもしゃい話でねが、なぁおみよ。
んだね、おら、ほだな話初めで聞いだ。おもしゃいね。んでも、ほんてん(本当の)の話だべが?
ずほ(嘘)でねぇよ。 爺様言ったけど。
んだがぁ、んでも貧乏神はいがったね。
んだ、いがったごど。
正吉とおみよは、顔ば見合ってた笑っけど。
んでもよ、爺様の顔は、んと寂しげに見だっけもな。
なしてだべね~?

なんと、おもしゃい話っ子だっけ。
ありゃ、爺様具合でも悪いが? 顔色青ぐして… おみよが聞いたけっど。
あらら、んだな、こりゃお開ぎにして、休んでもらうべは。 正吉も心配そうに言ったけど。
奥さ布団とったがらよ、まんずゆるりど休んでけらっしゃい。 おみよが爺様さ肩ばかして、奥さ休ませだっけど。
爺様はよっぽどくたびっで(疲れて)いだらしぐ、じぎ眠ったけっど。
………間………
つんぎの朝は、正月元旦。きんなの吹雪はずほ(嘘)みだいに日本晴れだっけど。
正吉おみよは、新年も豊年満作を祈って、白いまま炊いて、神棚お供えしたっけど。
してがら、爺様ば起こしたっけど。
「爺様、爺様、白いまま炊けだがら、おぎでおぐやい」 て、声ばかげだんげんとも返事ねぇっけど。
「あら、なじぇしたんだべ」 って、布団ばひっぺがえしみだれば、こりゃおったまげだ。
布団のなが、ピカピカ光って目も眩むほどだっけど。
爺様はなじぇしてしまったんだべね?
ピカピカ光ってんのば、よっくずど見っずど、そいづぁ、見だごどもねぇ大判小判が山になっていだんだけど。腰抜かしたのは正吉どおみよだったのだなね。
あの爺様は、いったい何者だったんだべね。その晩、正吉は庄屋様のどごさ行って一部始終報告したっけど。
庄屋様が言ううには、その爺様は、きっと福の神さまではながったんだべねぇがのって言うたっけど。
      どんぴんさんすけ かっぱの屁  


Posted by ほんねず at 16:21Comments(0)山形の民話(置賜方言版)